今年の6月に東京高等裁判所民事部において「差別されない権利」に基づく判決が下された。この判決は画期的なことと言っても言い過ぎではなく、裁判史上初めてのことのようである。全国紙などでも報道がされたので既にご存知の方もいるであろうがあらためて概要を説明させていただく。
この裁判は、全国の被差別部落の地名を書籍とインターネットで公開し、その関係者の個人情報をインターネットで公開するという差別を助長し身元調査に悪用されるおそれがあるなど悪質な差別的行為にたいして出版の差し止め、インターネット上に公開された情報の削除と損害賠償をもとめた民事訴訟である。一審はプライバシー権及び名誉権にもとづき一部地域を除き出版の差し止め、公開されている情報の削除と損害賠償を認めた。被差別部落の地名やその個人情報がさらされることにより、それらの情報による身元調査を容易にしてひいては結婚差別にいたるような差別行為にたいする判断ではなく前述の既存の権利侵害にあたるという判決である。原告と被告が共に控訴をしていた。
控訴では東京地裁判決がよりどころとしたプライバシー権、名誉権によるものではなく部落差別の現状や実態を精査し認定したうえでの「差別されない権利」に元づく判決である。「憲法13条は、すべて国民は個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を有することを、憲法14条1項は、すべて国民は法の下に平等であることをそれぞれ定めており、その趣旨に鑑みると、人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳をたもちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益である」(判決文)と「差別されない権利」の法的根拠が憲法にあることを明示している。
この判決は昨今の外国籍や外国にルーツを持つひとたちへのヘイトスピーチやヘイトクライムに対して、LGBTQなど性的マイノリティーなど差別されるさまざまなひとたちの闘いや救済にも活用されていくことと考えられる。
しかしながら高裁判決においても出版の差し止めとインターネット上で公開された情報の削除の対象地域はひろがったが全地域が対象とはならず問題点ものこる。
閑話休題、この間大手芸能プロダクションの主催者による長年にわたる所属青少年への性加害問題が大きく表面化をして大問題になっている。いろいろな問題をふくみ被害者救済、各方面での反省や是正など課題は多岐にわたるが、既に批准され30年ちかくになる「子どもの権利条約」の実行性の問題点やその普及や定着にむけた取り組み、被害をうけてもその相談をするための窓口がほとんどない現状において、人権救済機関の設置の必要性など再認識をさせられる。また、インターネット上での人権侵害、差別・偏見の氾濫にたいする取り組みも大きな課題と痛感をする。
差別を許さない法と共に改めて人権救済機関の設立にむけた取り組みが必要と考えさせられる。
出版協理事 髙野政司(解放出版社)
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