2024年の年明けを祝う人々を襲った能登半島地震。被災された方たちには心からお見舞申し上げます。
多くの書店も被災したことが報じられている。本や雑誌と読者の接点として大切な存在である地域の書店は、それでなくとも厳しい環境に置かれている。その被災には心が痛む。応援することしかできないが、地域の文化の拠点としての再建を心から願っています。
それにしても、過去の震災に比べても復旧・復興に向けた支援の遅さが目立つ。半島先端という地理的な条件から交通網が寸断され、多くの地域が孤立した。被災状況の把握の段階から遅さが明らかだった。学校の体育館など、避難所の環境も相変わらず悪く、食料・燃料の備蓄も不足していた。地震は予知できないとは言え、この地域ではこの3年ほど多くの地震が起きていた。福島と同様、原発をかかえた地域でもある。にもかかわらず、震災に対して住民の安全を守り、事あれば避難をする準備はあまりにもとられていなかったように見える。
政治に怒る。「国を守る」ということで現政権は武器を買い集めることには熱心だ。だが「国を守る」が「国民を守る」ということであれば、すべきことは、あってはならない戦争に向けて武力を強めることではなく、必ず起きる地震など自然災害に対して人々の命と安全を守る対策を強めることなのは明らかだ。税金の使い方が違うだろう。
税金の使い方を決めるのは国会だが、連日の自民党議員をめぐる裏金報道。企業献金を禁止することと引換えに、国民から集めた税金を政治活動費にあてる政党交付金。だが「パーティー」の会費として実質的な企業献金を受け取り、収支報告書にも載せずに裏金として懐へ。報道や検察の捜査で実態が明らかにされると、会計責任者をトカゲのシッポきり。報告書の金額を訂正し、「政治活動費に使った」とすれば、領収書はおろか使途説明すらなく税金も納めずにすむようだ。
政治家の鈍感さと昭和基準のコンプライアンス意識にあきれるとともに、検察や税務署にもっとしっかりせいと言いたくもなるが、待て待て、そんな権力機構が力を強めることは、ろくなことにならないと思い直す。すべきことは、怒りを持続し、次の選挙でそんな反道徳政治家を退場させることだ。
徳目を教え込む「道徳」は嫌いだ。あるべき「道徳」は、多様な考えや個性を持った人々が、相互にその存在を尊重し、合意形成を図りながらよりよい関係・よりよい世の中をつくっていく感覚を養うこと。つまり民主主義の感覚を育てることだと思っている。現政権や裏金与党のしていることは「政治を信じるな」「政治には関心を持っても仕方がない」という大パフォーマンスであり、まさに反道徳的だ。僕らは怒ることをあきらめてはいけないと思う。「自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」という日本国憲法のことば(第一二条)が好きだ。
決算・納税のシーズンを迎えている。インボイス制の下で初めてのシーズンだ。裏金一人分にも満たない売上の数字にため息をつきつつ考える。広く周知されたとは言い難いインボイス制という名の消費税増税と事務負担の増加を多くの人が実体験することになる。出版には多くのフリーランスの人々が関わっている。インボイス制の導入は、これまで免税事業者として活動してきたクリエイターと出版社の間に、税負担をめぐって対立の構図を持ち込んだ。どちらかが「免税分」を納付することになる。当面は経過措置があるが、数年間のこと。課税事業者になったらなったで、事務負担を抱えるフリーランスの方も多く出るだろう。結果、新たなクリエイターの参入のハードルが引き上げられることのマイナスを懸念する。引き続きインボイス制廃止を求め続ける。怒りを持続しよう。
出版協会長 水野 久(晩成書房)
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