①悪夢の再来! 外税表示の期限切れ
ご案内のように、定価の外税表示(定価=本体1000円+税/あるいは税別)の「表示特例」が、来年21年3月末で失効になる。消費税を加算した内税表示(「総額表示」)の義務化が出版社にも適用されると国は言っている。
とうてい、容認できない。30年前(1989年)に消費税を導入し、大きく育てていこうと考えていた勢力には、「定価には税金が含まれている」ということがあからさまになることを余程嫌悪したのか。業界を問わず小売価格の表記が大問題になった。
かつて出版協(当時、流対協)は、外税表示を主張して、内税表示を強制した公正取引委員会を訴える行政訴訟も提起した。
そのこともあって、現在の外税表示が可能になった。そうでなければ、税率の改定によって、カバー・ボウズの作り変えなどが必要になった。既存の定価表示の上に訂正シールを貼った過去の日々が悪夢のように蘇る。賽の河原の意味ない作業が強いられ、無駄な出費と絶版、断裁が余儀なくされた。
今、コロナ禍で消費税をアップしようとする勢力がある、消費税減税を提言している勢力もある。ここではその是非は言及しないにしても、「総額(内税)表示」に切り替えなければならない、理由はひと欠片もない。あるとすれば、官僚の杓子定規と惰性、消費税アップ勢力への忖度か。
「総額(内税)表示」の意味ない変更で、またぞろ断裁本/絶版本の続出(行政措置による出版物の抹殺)が出現し、出版業界を混乱させることはとうてい容認できない。誰も不利益を感じていないやり方を、みんなが不利益を被る方法に変えると言うのだから、あきれかえるばかりである。
表示の変更に伴う害の指摘は、出版業界ばかりではない。日本商工会議所の「外税表示の恒久化」の意見書、日本チェーンストア協会の申し入れ書を参照されたい。出版関係者こぞって反対すべき事柄である。
②なぜ、売上が9割減しなかったか?
コロナ禍で、売上がゼロ、9割、8割、7割減と、経営者の苦悩がそのまま伝わってくるような実績が報道されている。
3月の初め、小社も基本的にリモート体制を採用すると同時に、本年度売上3割減を予測した。根拠はあまりない、覚悟のようなものだ。案の定、4月から6月は各月25%程度の売上減を記録した。
しかし、7月からは、前年同月を上回る水準まで回復した。まったくお陰様である。営業担当とこの理由を考えてみた。紙幅の関係で委細は省くが、100年に一度の歴史的経験(スペイン風邪/5億人の感染/5千万人の死亡/1918年から20年)に直面して、本と出版業の特性を考えてみた。
神保町で、豚足を食べながらの放談であったから、そもそも理論的な精密さを欠くが、今後の方向を考える上で参考になった。
いくつかの要素をランダムに挙げてみた。
①飲食・旅行業などでの大きな落ち込みと出版業との対比? この差の理由は何?
②本という商品の特性/代替性のなさ、不要・不急性という特性
③本を読むこと/広義の意味で価値を生み出すという特性
④購入者の限定性/ある種「富裕層」に向けた商品という特性
⑤印刷・製本業、書店、取次、図書館、読み手グループなどの歴史的基盤
ここからどんな結論になったか、別途まとめてみたい。
出版協理事 上野良治(合同出版)
Comments