最近、いわゆるM&Aを行っている会社からの案内が度々、時には自宅にまでやってくる。メール、DMやFAXそして電話とそのアプローチの方法は様々だが、その誘い文句はだいたい「他業種の大手企業が、御社との協業に興味があり、まずは話を聞いてほしい」というような内容だ。
先方も商売とはいえ、2年連続総販売額が減少している業界の中の辛うじて生きているといえるような零細出版社にどんな興味があるというつもりなのか疑問だらけだが、万一M&Aなり協業となった場合、うまくいくとは思いにくい。
もともと産業分類上、出版業は製造業だったはずなので、多くの紙束を送り出すときは笑顔で、多くの紙束が戻ってきたときは泣き顔で、いったん瑕疵があれば紙束の山を前に呆然としつつも、冷や汗をかきながら対応するといったことが当たり前のこととしてやってきた会社と、現在の分類である情報通信業をイメージしてやってくる「他業種」の会社のカルチャーギャップはかなりのものだろうと想像する。
同業他社との雑談でも互いに「えっ」ということも多々あるなか、他業種と協業や合併が生み出す摩擦は小さくないだろう。
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先日、雑談の中で、新卒で採用した社員が3年程度で辞めてしまうと嘆いている人がいた。会社としては決して冷遇したつもりも、いわゆるハラスメントのようなことをしたわけでもないはずで、かつての新人に対するより穏やかに丁寧に接してきたはずで、これからようやく仕事を一から任せてと思った矢先に「自分がやりたいと思っていたことと違っていたので」や「他にやりたいことができたので」との理由で辞めていくらしい。また、その会社だけでなく、その場に居合わせた何人かが同様のことを口にした。
昭和の終わりにこの業界に首をつっこんでしまった世代としても、確かに入社数年で転職という人たちはいたが、出版業界にそれなりの憧れを持った上で迷い込んでいるので、その理由は「給料が安過ぎる」「社長がワンマン過ぎてついていけない」などだった気がする。
こちらはカルチャーギャップよりジェネレーションギャップが大きいのかもしれないが、不機嫌な人の傍にはいたくないのが普通なので、受け入れる方は、なるべく機嫌よく、より柔軟に、うまくその仕事の意味や価値を言葉で伝えられるようにする必要があるのかもしれない。それを共有できれば、もう少し若い世代が定着してくれるのではないかと思うのだが。
小さな組織であれ、人の居場所であることも確かなので、共に働いていることと、そこに安心して居ていいのだという感覚も共有できることが必要なのかも知れない。
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集品や書籍返品の一部、雑誌返品の協業は以前から開始、日販のCVS撤退に伴うトーハンの引き受けなど様々な一本化がなされてきた。ついにトーハンと日販が書籍返品業務も、来年夏頃から協業を開始するという。日販が中心となって設立した出版共同流通が請け負っていた日販、楽天BN、日教販の書籍返品業務をトーハン桶川センターに移行する段取りらしい。
かつて流対協として、出版共同流通での返品業務開始時には返品手数料や荷姿、頻度や新規条件等について細かく交渉してきたが、個別取次ごとの条件交渉が先に動いているからか、今回は具体的な動きはなさそうだが、安心していいのだろうか。
業界全体の弱体化が期せずしてもたらした事態ともいえるが、業界としては大きな仕事でもある。いくら同業であっても、競業してきた間柄だ。各々独自のやり方や考え方があるはずので、ここは「共業」とばかりに、お互いに機嫌よく寛容にことを進めて、心地よいライムを踏んでいただきたいと思う。
で、我々としては、できる限り予想外の火の粉が降りかかりませんようにと願うばかりである。
出版協理事 廣嶋武人(ぺりかん社)
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