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なぜ「文学フリマ」に人は集まるのか(ほんのひとこと)

更新日:2024年12月25日

 みなさんは文学フリマをご存じだろうか。「出版不況」や「活字離れ」といった言葉は幻想ではないかと感じるほどの動員数と熱量を持つイベントである。「作り手が『自らが〈文学〉と信じるもの』を自らの手で販売する、文学作品展示即売会」と公式サイトにはある。回を重ねるごとに出店者と来場者が増え続け、2024年12月1日に東京ビッグサイトで行われた「文学フリマ東京39」では出店者数が4千人超、一般来場者数は1万人を超えた。なお、第一回は大塚英志氏の「群像」誌上での呼びかけにより、2020年11月に青山ブックセンター本店で開催され、出店者数70、来場者数約1000人であった。


 出店者は一般人がほとんどと考えられるが、出版業界からの出店も見受けられる。新潮社や書肆侃侃房、ナナロク社のような商業出版社や、丸善ジュンク堂、メロンブックスなどの一般書店のほか、企業の名前を使わずに同人活動レーベルで出店する編集部員、営業部員、書店員などもいる。当社の社員もたまに出店者として活動しているようだ。


 一般参加者側にも見知った顔に出会う。業界団体の理事長や事務局長、書店本部のバイヤーも来ている。成長を続ける文学フリマを視察する意味合いもあるだろうが、純粋に面白い本との出会いを楽しみに来ているようにも見える。私もここ数年、一般来場者として東京開催の場に参加してきた。東京流通センターから今回の東京ビッグサイトへと大きな箱に移ったことで、多少は余裕ができるかと思いきや、入場して一時間もすると前に進むのも困難なほど通路に人があふれる熱気は変わらない。


 そして文学フリマでは、購買行動も少々おかしくなってしまう。今回の私の場合、わずか二時間の間に、20冊もの本を購入してしまった。6分に一冊の計算になる。クレイジーである。自宅には積読本が本棚だけでなく床や階段にも積んである状況なのに、どこに置くのか。いつ読むというのか。家族にもあきれられた。町の書店ではもっと慎重に買い物をするのに、なぜ文学フリマはこんなにも人を熱狂させるのだろうか。


 そのヒントとして、私がどのような本を衝動買いしたのかを一部ここで晒してみる。


・『サッポロ カルト クラシックス5』(サッポロカルトクラシックス発行)――札幌市内の電柱に貼られるオカルトな怪文書たち。その製作者を追う。


・『履歴書籍 一巻』(こぐま書房)――正規の履歴書には書けない、本当の履歴書集。「生活保護と自己破産の履歴書」「元カルト宗教二世の履歴書」など。


・『誰かの思い出の場所を、その人と一緒に歩く散歩がしたい』(羽織虫/ゲスト ごま)――失恋の思い出の場所を、全くの赤の他人と散歩をしたというエッセイ。


・『研究者・技術者をボスにもつ人のための ラボ整理コミュニケーション術』(正保美和子)――製薬企業の基礎研究院として31年在職した著者による「研究運を逃さない」研究室のお片付け実用書。


 これらの本に共通するものが何かおわかりだろうか。それは失礼ながら、数千部の初版刷数を必要とする商業出版では、まず通らないであろう企画という点だ。コンプライアンス的にも難しいものもある。しかしいずれの点もこれらの書籍の魅力を損なうものではない。むしろ、見たこともない、類のない本ばかりであり、キラキラとまぶしい。商業出版をしている我々は企画会議の段階で、「類書は売れているのか」とか、「前例がないから売れるかわからない」とか、「置かれる棚がどこかわからない」とか、読者にとってはどうでもいいことで悩む。しかしこれらの本からは、売れるかどうかはわからないが、誰もやらないからこそ自分が本にして届けたいという意気込み、出版の原点のようなものを感じる。このような本に出会える、一期一会の機会であることが、文学フリマが人を集める魅力の一つであろう。


 もう一つ忘れてはいけない魅力は、著者とのやりとりである。売り場では多くの場合、著者本人が店番をしている。中には商業出版でも活躍している著名な作家もいるが、ほとんどの場合はお互いに名も知らない、はじめてお会いする方ばかりである。そうした著者本人と、本の内容についてや、なぜこの本を作ることになったのかなど、会話をしてから本を買う。会話をしなくてももちろんよいのだが、そのほうがお互いに楽しいし、会話をすると、その著者はもはや知らない人ではなくなる。本は元来、会ったこともない人が書いたものを読むことが多いが、一度でもお会いしていると、そこに書かれた文章もより鮮やかに、立体的に見えてくる。


  「類のない振り切った企画を出す」「作品だけでなく、著者の人となりや、作品が生まれた背景も伝える」といった、商業出版にどっぷり浸かっていると忘れそうになる大切なことを、文学フリマに行くと思い出す。



出版協理事 三芳寛要(パイ インターナショナル




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15 Comments


Leginem
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