■現状と今年の「送信除外手続」をめぐって
国立国会図書館(NDL)の資料デジタル化事業が急速に進んでいる。2022年度も2022(令和4)年度補正予算約48億円を投じて、1988~1995年刊行の国内刊行図書を中心に、約42万冊がデジタル化された。その内、NDLが絶版等入手困難と判断した資料は、23年10月、図書館・個人向けの「送信対象リスト」としてNDLホームページに公開された。その後24年2月までの「事前除外手続」を経て、24年4月末、26万点が新たに図書館・個人向け送信サービスの対象に追加された。
この一連の流れにおいて、送信対象となる出版物の版元出版社に、NDLから直接の確認連絡は一切ない(2023年末から、NDLは日本出版インフラセンター[JPO]の協力を得て、出版情報登録センター[JPRO]の連絡網を通じて出版社宛にデジタル化や除外手続きについての広報を開始した。出版社に直接広報することのなかったNDLとしては一歩前進だが、一斉同報での広報であり、対象社への注意喚起になっていない)。自社の出版物が送信対象になっていることに気づかない出版社があるのは当然の帰結である。日本出版者協議会(以下、出版協)ではNDLが公表した「送信対象追加」のリストから会員社を確認(事務局調査で43社)、各社に注意喚起と「事後除外」案内を送信した。
会員社A社の場合、出版協からの連絡で、70数点が、著作権等管理事業者・日本出版著作権協会[JPCA]に登録したにもかかわらず送信対象になっていることに気づき5月2日、NDL関西館除外手続担当に抗議し、事後除外を申請した。
5月7日、NDL関西館除外手続担当からA社に「除外申請受付」のメールがあったが、この時点で送信を中止したかどうかは不明。同23日になって、NDL関西館除外手続担当からA社に(1)申請全点が著作権等管理事業者に登録されていることを管理事業者のホームページで確認した。(2)これとは別に5月2日の除外申請以前にA社が同様の理由で除外申請していた10数点については、管理事業者のホームページで確認がとれないので、6月末時点で確認がとれなければ送信を開始する予定。――との連絡。除外申請から3週間が経っていた。A社は即刻同日、除外までの確認作業の遅さと、(2)の一方的通告に抗議した。
同27日、NDL(東京)電子情報部 電子情報企画課課長補佐の名義でA社および出版協に「今回の件は、著作権等管理事業者への登録手続中で委託の事実が確認できないものについて、個別の事情を十分に考慮せず、送信を継続してしまったことによるもの」として「今後はこのようなことがないように対応」するとの「お詫び」のメールが届いた。
出版協はNDL側に5月28日にメールで、また6月6日、NDL電子情報部とのオンライン面談で改めて以下の3点を申し入れた。
(1)事後除外については、申請があった時点で即刻送信を停止すること(確認作業は送信を止めてから行うこと)。
(2)除外申請要件をNDL側で確認できない場合であっても、一方的な送信に踏み切らないこと。
(3)送信候補追加リストの公表時に、対象出版社に直接連絡を行うこと。
NDLは(1)(2)については同意と回答。(3)については予算・人員的に困難との回答だったが、出版協からは、対象出版社はJPROに参加している3,000社とほぼ重なることが推察でき、個別連絡は非現実的とは思えないとして、継続して方策を考えるよう重ねて要望した。
■今後について
NDLでは現在(2024年)、2023(令和5)年度補正予算(第1号)49億円余により、1996~2000年刊行の国内刊行図書約45万点のデジタル化が進んでいる。そのうちの絶版等入手困難資料は、2025年前半には送信開始となる。
NDLは今後のデジタル化事業の進め方の方針を公表していないが、書籍のデジタル化がさらに最近刊行のものへと、この2年間のペースで進んでいけば、数年のうちに新刊書籍はただちにデジタル化が行われることになるかもしれない。
こうした状況は、現在の「送信サービス」のもととなる「国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項」が結ばれた当時の想像を超え、NDLの資料デジタル化事業、およびデジタル化資料の送信サービスが出版業に与える影響も、格段に大きくなっている。
出版協は次のように考える。
(1)今後のデジタル化にあたっては、近年刊行の書籍のデジタル化を優先すべきではない。
NDLの資料デジタル化の目的である「原資料の保存」の観点から考えれば、デジタル化の優先度は資料の「唯一性・希少性」「劣化状況・保存の緊急性」などから判断すべきである。出版業への影響の大きい最近刊行の書籍のデジタル化を優先する理由は乏しい。
(2)過去の「合意」による現在の「送信」までの手続きの見直しを求める。
急速なデジタル化の進展による影響の拡大、関係出版社の増加に対応して、送信サービス対象資料の選定から送信までの現在のあり方を再検討すること。
とりわけ次の2点は、出版社の営業活動への影響から強く求める。
A デジタル化資料の内、現存する出版社の刊行物については、刊行後少なくとも20年未満の書籍は送信対象にしない。
B 送信対象となる資料の版元出版社には、「送信」開始までの段階でNDLから直接連絡することを原則とする。
(3)NDLによるデジタル化データ、およびOCRテキストデータを版元出版社に提供可能にする。
デジタル化データについては既に希望する版元出版社に提供されている。2024年から開始されたデジタル化資料のNDL開発のOCRによるテキストデータについても、同様の扱いを求める。
以上の点を中心に、NDLおよび関係各方面に働きかけていきたい。
わが国の出版市場規模は依然、長期の縮小傾向の中にある。全国の書店数の減少にも歯止めはかかっていない。出版をめぐる状況が引き続き厳しい中で、NDLの資料デジタル化とその利活用はどうあるべきか――多様な出版活動をそれぞれに持続することで文化の発展に寄与することを願う出版者の団体として、開かれた論議を求めたい。
出版協会長 水野 久(晩成書房)
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