2022年2月7日、自由民主党参議院議員山田宏氏が、フォロワーのリプライに反応する形で、ポプラ社の総合百科事典『ポプラディア』の「慰安婦」の定義について、ツイッター上で「酷い『百科事典』ですね。対応策を検討します」と発言した。
従軍慰安婦の存在は多くの歴史学者の実証研究によって国内外において定説になっており、『ポプラディア』の表記は独自の見解ではない。山田議員が何をもって「酷い『百科事典』」と断じるのか不明だが、その判断についてはここでは疑問を呈するに留める。
私たちが問題にするのは、そう断じた出版物について「対応策を検討します」としている点である。与党国会議員が「対応策」と言えば、法的な規制を想起させるに十分である。権力に近い立場の者が、学問に介入する可能性を公言したことに、私たちは強く抗議する。
政治の学問や言論・出版への介入については、事例を挙げれば枚挙に暇がない。1939年、「原理日本」誌による蓑田胸喜らが、津田左右吉の『神代史の研究』等4冊(いずれも岩波書店)を攻撃した時、これを利用したい政府は国粋的な世論を背景に同書を発禁処分とし、津田は大学追放、岩波書店社主の岩波茂雄とともに出版法違反で起訴されるに至った。こうした政治の学問への介入は更なる検閲と言論統制に繋がり、わが国に道を誤らせた。
山田議員の発言は規制を明言したものではない。実際に何らかの規制が行なわれたわけでもない。しかし規制の可能性を暗示することで、言論を萎縮させようとするものに他ならない。こうした火種を傍観することがやがて弾圧と戦禍を呼び起こすことは、ドイツの牧師マルティン・ニーメラーが、ナチスによる迫害を振り返って「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」として広く知られる言葉で警鐘を鳴らしているが、他国の例をひくまでもなく、まさにわが国自身の歴史が証明している。
私たち日本出版者協議会は、言論・出版の自由を擁護する出版者団体として、『ポプラディア』の表記をめぐる今回の発言問題を看過できない。強く抗議し、決して傍観しないことを表明する。
以上
2022年3月29日
一般社団法人 日本出版者協議会
会長 水野 久
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