警察庁に「サイバー警察局」などを新設する「警察法の一部を改正する法律案」が、本年1月28日に国会に提出、短時間の審議で3月31日可決成立し、4月1日から施行されることとなった。
国の機関である警察庁は、これまで自らが犯罪捜査を行うことを認められていなかった。これは、戦後改革によって、幾多の人権侵害を起こす原因になった戦前の中央集権的な国家警察が否定され、自治体警察に警察活動を委ねたためである。
改正の理由は、重大サイバー犯罪への対処とサイバーセキュリティに対する脅威の深刻化とするが、警察庁に新たに「サイバー警察局」と「サイバー特別捜査隊」をもうけ、戦後の警察組織の原則を否定してまで警察庁に捜査権限を与える必要があるのだろうか。国会の短時間での審議では、その点が十分説明されたとは到底言えない。
「サイバー警察局」が捜査対象とするサイバー領域は、私たちが日常生活で利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションの領域そのものである。言論、表現の自由および通信の秘密が保障されたコミュニケーションは民主主義の基盤をなすものである。
警察はこれまでにわかっているだけでもすでに、被疑者写真約1170万件、指紋1135万件、DNA型141万件など膨大な個人情報を収集している(2021年5月11日参議院内閣委員会)。日本には、そうした警察による個人情報の収集・保管・抹消に関する法律がないため、その実態はほとんど明らかではない。
改正法案ではサイバー攻撃やサイバー犯罪に関する定義があいまいであることから、「サイバー警察局」は、高度な技術力を駆使して、サイバー領域においても市民の個人情報を収集し、市民の活動そのものを日常的に監視するおそれがある。電気通信事業法でも明記されている「通信の秘密」を無効にするそうした監視は、市民の自由なコミュニケーションを萎縮させ、言論・表現・結社の自由を保障する憲法21条と相容れないものである。
日本出版者協議会は、言論、出版及び表現の自由の擁護を目的とする団体として、警察法の改正に強い懸念を表明する。
「サイバー警察局」が法制化され、4月1日には早くも創設された今、サイバー領域での市民の個人情報保護を強化する必要性は、より一層高まった。現在、顔写真、指紋、DNA型データなど捜査上の個人情報の収集・保管・抹消について定めるのは国家公安委員会規則である。そうした規則では、警察による市民の個人情報収集・管理に対する監視や市民からの抹消要求の実効性は担保できない。それに応えるためには、捜査情報の収集・管理・抹消に関する法律と、徹底した個人情報保護の法律を作る必要がある。早急な法律の整備を強く要求する。
以上
2022年4月1日
一般社団法人 日本出版者協議会
会長 水野 久
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TEL:03-6279-7103/FAX:03-6279-7104
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