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故安倍晋三元首相の「国葬」に反対し、撤回を求める声明


 岸田内閣は、2022年7月22日、故安倍晋三元首相の「国葬」を9月27日に行うことを閣議決定した。

 暴力により他者の生命を奪うことはいかなる理由があろうと許されない。犯行を批難し、命を絶たれた安倍元首相の冥福を祈りたい。そのうえで、私たち日本出版者協議会は、言論、出版及び表現の自由、良心の自由を擁護する立場から、この国葬の実施に反対し、その撤回を政府に求めるものである。

1 国葬は、法律に基づいていない。

2 国葬による安倍元首相の「業績」の強制は、表現の自由(憲法21条)に反する。

3 国葬による弔意の強制は、思想・良心の自由(憲法19条)に反する。

1 周知のとおり、現在、国葬について定めた法令は存在しない。戦前にあった国葬令(勅令、1926年制定)は、日本国憲法に不適合なものとして「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」1条に基づき、政教分離の観点から失効した。

 岸田内閣は、国葬に関する法的根拠がないまま閣議決定により、国葬を強行しようとしている。このように法令上の根拠のないまま国葬を行うことは法治主義(憲法97条から99条)に反することは言うまでもない。また、それに国費を支出することは「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(憲法83条)とする財政立憲主義の原則からも許されないと言わざるを得ない。

2 岸田首相は、7月14日、参議院選挙後の記者会見で国葬についてつぎのように述べている。

 安倍元首相を「卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために内閣総理大臣の重責を担ったこと、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を様々な分野で残された」と評価し、それを国葬決定の理由としている。

 安倍元首相の在任中の「業績」については、以下の点などで賛否が大きく分かれるところである。

 特定秘密保護法(2013年)、専守防衛の範囲を変更する閣議決定(2014年)、集団的自衛権行使を容認する安保法制(2015年)、共謀罪(2017年)などの強行。貧富の格差拡大をもたらしたアベノミクス。森友・加計学園問題・「桜を見る会」問題。自殺者まで出した財務省の森友問題に関わる決済文書の改ざん問題。

 国葬を強行すれば、安倍元首相を賛美するという効果をもたらすことにならざるを得ない。その結果、安倍元首相の「業績」への評価が封じられ、安倍元首相に対する批判への攻撃が助長されるおそれがある。そうなれば表現の自由が冒され、民主主義が危機に瀕することになるのは言うまでもない。

3 葬儀を国が主催することは、遺族など個々人が故人を悼むこととは異なり、国家の意思として当該個人への弔意を表すものである。国民が安倍元首相への弔意を事実上強要されることになりかねない。実際に、吉田茂元首相の国葬(1967年)の際には、競馬や競輪などの公営ギャンブルや娯楽番組の放送が中止され、全国各地で民間企業、学校などには半休を、一般家庭にも黙とうを要請されたという事態が生じている。

 すでに、安倍元首相の葬儀にあたり、弔旗を掲げたり、記帳台や献花台を設置した自治体もある。また、東京都に加え7つの教育委員会が「半旗掲揚」を求める文書を学校に送っていたことが明らかになった。教育機関への弔意の強制は、思想・良心の自由(憲法19条)に反するものであり、政府が国葬を実施すれば、こうした傾向がさらに助長されることが懸念される。

 共同通信社による安倍元首相の国葬に関する世論調査(7月30・31日実施)では、「反対」「どちらかといえば反対」が53%と「賛成」「どちらかといえば賛成」を8ポイント上回った。岸田首相は、8月の臨時国会において、国葬を強行する理由について説明をなんらしていない。その後の報道各社の世論調査においても、国葬に関しては評価が大きく分かれている。

 以上のように、日本出版者協議会は、言論、出版及び表現の自由、良心の自由の擁護を目的とする団体として安倍元首相の「国葬」に反対し、その撤回を政府に求めることを表明する。

以上


2022年8月10日

一般社団法人 日本出版者協議会

会長 水野 久

東京都文京区本郷3-31-1 盛和ビル40B

TEL:03-6279-7103/FAX:03-6279-7104


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