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「読書の秋」におもうこと(ほんのひとこと)

 10月になっても、まだ最高気温が25度以上の日がしばしばであった。「読書の秋」なるものは、もうなくなってしまうのだろうか。早いもので今年もあと2ヶ月。



 書店振興策のパブリックコメントを国が行うということであるが、国などには頼らないほうがいいと思う。何かと口を挟む口実を与えることにしかならない(そんなことを言っている場合ではない、という立場ももちろんあるだろうが)。


 たしかに、長年にわたる業界内での改革はいまだ実を結ばず、かつ書籍も雑誌も売上は落ちるばかりである。雑誌は、Web上の情報に押されっぱなしである。電子書籍の売上はコミックが圧倒的なようである。書籍はデジタル化の進みが遅いが、かなり進んできたようだとはいえ、その売上高は、2023年で、紙が6,194億円、電子が440億円ということであるので、紙の7%程度でしかない。ちなみにコミックは4,830億円である。紙+電子で、単純に売上が増えてくれればいいのだが、そうはいかないようだ。


 2018年に6,991億円あった売上は、2023年は797億円減少。電子書籍は2018年に321億円、2023年は125億円増加。残念ながら、穴埋めにはなっていないようだ。小社も、電子書籍化を進めてはいるが、この数字をみると、考えさせられてしまう。が、ともかくは進めていって、少しでも読者が広がればと思っている。


 同時に、街の書店さんが、減り続けている。とりわけ小中規模の書店さんが、閉店しているのは、もちろん売上がついてこないからだろう。こうしたなか、大阪屋(現在の楽天ブックスネトワーク)がはじめた小さな書店さんが開業できるようにする取り組みを、トーハンも行うようである。返品率を15%以内ということなので、これまでの感覚でいえば、ほぼ買い切りといえるだろう。仕入れ上限が月100万円、下限は別途ご相談だという。「週末本屋」「兼業本屋」「実家で本屋」「どこでも本屋」といった形がトーハンのHPに出ている。正味の問題もあるが、下限の設定がどの程度かがわからないので、なんとも言えないが。下限が例えば、月50万とすると、1日1万7000円、1000円の本で17冊売れないといけない。一月で500冊以上になる。高定価の本であれば、冊数はすくなくて済むが、冒険かも知れない。


 しかも新刊、既刊を含めて、毎月500冊の本を選定するという作業はかなり大変である。定番を置いておけば売れるわけでもなく、立地にあった本を選ばなくてはならない。新刊は毎日、山ほどでるので、そのなかから店にあった本を仕入れるのも大変だ。


 これまでの書店さんと同じ様な形で取引をするのであれば、思ったより敷居は高いように思う。是非とも成功してもらいたい企画ではあるが。


 絵本の専門店、旅の本の専門店など、専門に特化した小さな書店さんであれば、現在でも成り立っている。これらの書店さんの仕入れ形態がどうなっているのかは、分からないが、美術関係でいえば、売れた分だけ精算という形が多い。美術館のミュージアムショップなどでの販売なので、展覧会に応じた品揃えや、コンスタントに売れるものなどを組み合わせているので、それほど返品も多くはない。ただ、個々の美術館ではなく、間に運営業者さんが入ってくれているので、精算業務など滞りなく進んでいる。これを個々の美術館と個別に精算を行うとなると、こちらの業務が大変になってしまい、やりきれなくなってしまうと思う。業者さんに感謝である。


 通常ルートでは、取次がこうした役割を果たしてくれている。全国のどこの書店さんからの注文でも、本が届くのは、取次があってこそではある。そして、請求関係も取次だけで済むのであるから、小社のような小規模の版元でもやっていけるわけではある。


 とはいえ、そこにはさまざまな問題が歴史的に山積していて、個々の版元の取引条件やらなにやらが長年にわたりそのままになっている。また出版社の新規参入が厳しく、若い出版社が、かなりの資金がないと参入できないなど、意欲的な小規模な出版社が出にくい状況が続いている。新しい出版社が出てきてこそ、市場が活性化されるように思うのだが。また、多くの難題があったとはいえ、既存の取次が電子書籍市場に取り組めなかったことも、今になってみれば、アマゾンの一人勝ちを招くことになったようにも思う。今更ではあるが、なんとかならないものであろうか。


 しかし、書籍が売れないというのは、どういうことだろうか。もちろん読者が少なくなったからなのだが。なぜ、少なくなったのだろうか。


 本にお金をまわすことができなくなったのか。刊行されている本に読もうとさせるだけの魅力がないからなのだろうか。本を読むだけの時間の余裕がないのだろうか。電車にのって、本を読んでいる人を見ると、それが図書館から借りたものであれ、うれしくなるぐらいに、なかなか見かけることがなくなってしまった。新聞を折りたたんで読んでいる人も、ほとんど見かけない。


 紙に書かれてある文字を読むという、習慣そのものが廃れてきてしまっているのだろうか。とはいえ、小学校からの教科書は、まだ紙の教科書であって、それを読むことは習慣になっているように思えるのだが。なぜだろう。



出版協理事 石田俊二(三元社

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