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インターネット上の違法・有害情報の対処に関する法改正(ほんのひとこと)

 既にご存知の方も多いかと思われるが、インターネット上での違法・有害情報(名誉棄損やプライバシー侵害、差別や偏見などの誹謗中傷、著作権や肖像権の侵害など)の対処についての法改正がなされ一年以内に施行される。この改正法の概要と課題などについて考えてみたい。



 法的には「プロバイダー責任制限法」の改正という位置づけで通称「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」という。改正前は、対象者・被害者が発信者の特定を簡便にできるという程度のものであった。改正案では大手のプラットフォーム事業者を対象に、事業者自身に違法・有害情報への対処方針などを求めるものである。


 具体的には、削除申請の窓口と手続きの整備・公表、申請への対応体制の整備(知識経験を有する者の選任など)、1週間程度での判断・通知という対応の迅速性と、もう一つが判断基準の作成(ガイドライン)と公表、申請への対応状況について年一回の公表、削除をした場合は発信者への通知を定めるという運用状況の透明化である。


 これは、これまでの削除要請に関して、窓口のわかりづらさ、放置されると情報が瞬く間に拡散すること、削除申請後にどうなったのかの通知がないこと、削除方針が分かりづらかったことに対するものである。


 対応が不十分な場合は総務省が勧告・命令をだし、従わない場合は最大1億円の罰金を科すことも定めている。


 検討課題は、ガイドラインの作成が各大規模事業者にゆだねられていることである。同じような案件で判断が異なる可能性がある。また、ガイドラインの恣意的運用の可能性も否定ができない。これに対しては、削除などの実績を踏まえガイドラインの策定・改正を支援する第三者機関の設置などを検討することが付帯決議に盛られているが、その設置が重要と考える。


 さらに、今回の対象が大規模事業者であるということは、その他の事業者などが漏れるということである。これだけの対処にはそれなりの経費や体制が必要ということで、大規模事業者に限られたようであるが、違法・有害情報は規模に関係なく発信される。付帯決議では「必要な施策を講ずること」とあるのみである。


 先日、東京地裁で判決が確定した「まんが村事件」では17億円の損害賠償が命じられた。被告は資産を海外に移しており、賠償金を支払うつもりがないという報道を見聞きし何とも言えない割り切れない思いをしたが、今後は著作権など関連法がある案件については「情プラ法」が効果を発揮するのではと期待が持てる。


 一方、差別や偏見、人権侵害については事情がことなると言わざるを得ない。昨年、東京高裁で「差別をされない権利」に基づく判決がでたということを以前書かせていただいたが、EU各国の先例などをふくめて実行性のある包括的な差別禁止法・人権擁護法が必要ではないかと考える。それが「ガイドライン」、第三者機関のありようの元となるのではないかと思う。


出版協理事 髙野政司(解放出版社

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