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書店主たちの超刺激的な白熱のトークセッション!(ほんのひとこと)

 5月20日(月)の夕刻、出版者協議会プレゼンツ「地域の書店に聞く――不忍ブックストリートのブランディングと流通・経営課題」と題してシンポジウムを開催した。いつも以上のイベント参加者数で、熱気と関心の高さがうかがわれた。


 登壇者は、笈入建志氏(千駄木往来堂書店。2000年より千駄木往来堂書店店長。2018年、書店オーナーとなる。新刊書店。流通は大阪屋栗田・トランスビューほか)、小国貴司氏(BOOKS青いカバ。元リブロ外文書担当、2017年より書店開業。新古書店。流通は八木書店ほか)、小張隆氏(ひるねこBOOKS。元・童心社営業。2016年より書店開業。新古書店とギャラリー。流通は子供の文化普及協会ほか)の書店主の方と、そしてシンポジウムのコーディネーター、出版協理事・三芳寛要氏(パイインターナショナル代表)である。

 「書店そして出版社にはいかなる未来があるのか」をめぐって、各書店の特徴(客層、流通、書籍のジャンル)、地域ブランディングの目的と効果(不忍ブックストリート、一箱古本市、不忍くんの本の縁日)、主たる利益構造(新刊、古書、ギャラリー、グッズ販売)、版元や流通に望むこと、そして出版界の「十年後」について語ってもらった。


 主な活動としては、シンポジウムでも配布した「本と散歩」に関わるスポット(書店・図書館・カフェ・雑貨店・ギャラリー等)のイラスト入り「不忍ブックストリートMAP」(「不忍ブックストリート」は「谷根千(谷中・根津・千駄木)」のメインストリートである不忍通りの新刊書店・古書店の有志が集まり地域ブランディングを行っている)の編集・製作そして配布。「本屋を体験したい」という一般の方々が古書を販売する「一箱古本市」の開催。書店や出版社が寺の境内に集って書籍の販売を行う「不忍くんの本の縁日」等がある。ことに谷根千でスタートした「一箱古本市」は現在、全国各地で開催される人気のイベントとなった。

 「不況だ!」「経営が厳しい!」といわれ続ける出版界において、地域密着型で、特徴的な運営をされている書店主の意見は具体的で直截的、日々、格闘される方々の声を聞くことはまさに僥倖であった。


 往来堂書店の笈入氏は、地域(千駄木)のお客さんとの関係を密にする意味で、「往来っ子新聞」の発行、地域住民の読書傾向を意識しつつも全方位的な品揃えを考えているという。とはいえ、「雑誌」販売の落ち込みはいかんともしがたい現状で、人気アーティストのミロコマチコさんとのコラボレーションで、Tシャツやエコバッグ等の往来堂独自の商品を開発し、集客と売り上げを伸ばしている。

 BOOKS青いカバの小国氏は、古書と新刊の売り上げ比率は8対2という。集客向上のために日々「均一棚」の充実を考え、東洋文庫に隣接する立地を生かして仕入の選択と集中、売り上げをいかに伸ばしていくかを考えている。また、気になる新刊を意識的に仕入れ、著者のトークイベントを開催し、新たな客層の開拓にも余念がない。もちろん、グッズや絵画・イラストの販売も展開している。

 ひるねこBOOKSの小張氏は、以前は版元の営業だったということもあり、とりわけユニークな書店運営をされている。主に絵本を扱い、来店者のおよそ8割が女性客だという。ギャラリーを併設して絵画やイラストも販売する。また、しおり、マスキングテープ等のグッズ、そして「ZINE(個人製作の冊子)」も販売している。さらには、版元とのコラボレーションで「ひるねこBOOKS」というレーベルで書籍を製作・販売している。さすが版元の元営業担当者の小張氏、「マーケットイン」的発想の具現化なのであった。


 二十数年にわたる書籍・雑誌の「市場」縮小がつづく状況では、版元も書店も「利益」を確保することは容易なことではない。とはいえ、個性的な運営者・経営者はみな知恵をしぼり、「継続的」であることを基軸にすえ、客が興味を示す「仕掛け」を実践している。業界の現状を分析し、たんなる変革ではなく「改良」を追究している。業界内の「制度疲労」を正確に認識し、そのうえでいかに自社の「競争力」を高めればよいか、今回の「シンポジウム」では多くのヒントが提示されたと思う。

 「AI」の時代といわれるいまこそ、「人」の多彩で多様な知恵を生かすことが重要だ。既存の「システム」を改良し、個人の「技能」を最大限に発揮し、持続的な成長戦略を画策すること。運営者・経営者と社員およびスタッフとの円滑で臨機応変な「協働」は必須である。

 出版者(版元)の存在意義は極彩色な「価値」の創造。「ヴァリューチェイン」――それがわれわれの「使命」なのである。


出版協理事 河野和憲(彩流社

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