マイナンバー制度の違法・違憲を訴え続ける(ほんのひとこと)

更新日:2020年3月11日

 マイナンバー制度は憲法13条が保障するプライバシー権を侵害するとして、自分の個人番号の利用差止めや削除などを求めた訴訟が東京、名古屋、大阪、仙台、金沢、新潟、福岡など全国8箇所で提起されています。9月26日、神奈川県などに住む230人が求めた訴訟の判断が横浜地裁(関口剛弘裁判長)でありました。マイナンバー制度についての憲法判断としては初めてのものでしたが、判決の結論は、制度を合憲と認めるもので、不当判決でした(控訴中)。

 私は、この横浜訴訟の原告になっています。弁護団より、〈事業者はマイナンバー制度をどう受けとめているか〉について意見陳述してくれとの要請を受けて、一昨年9月、法廷に立ちました。

 意見陳述の内容は、つぎの2点でした。①マイナンバー制度による中小零細出版社の経済的負担、②訴訟の原告になった理由。

 ①については、とくに著者との関係に触れました。

 同法では、事業者には、著者に印税や原稿料をお支払いした場合、税務署に提出する書類(「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」)に著者の個人番号を記載することが義務づけられています(現在のところ、税務署はその記入がなくても、書類を受け取っています)。そのため、事業者は、著者から個人番号の提示を求める必要があります。その際、本人確認に必要なマイナンバーカードのコピーも一緒にいただくことになります。

 そして、事業者には、受け取った個人番号やその関連書類に関して、厳重な管理(「安全管理措置」)が義務付けられています。その「安全管理措置」の内容は、多岐にわたっています。

 たとえば、そうした番号付き情報を扱う業務担当者を社内で選任し、その情報を保管する場合はインターネットに接続していない独立したPCでなければならないとされています。そのようなことが、小出版社で現実的にできるのかということです。

 ②の原告になった理由については、おおよそつぎのように述べました。

 マイナンバー制度を放っておくと、IT技術の高度化にともなって、すべての自分自身の社会行動が紐付けされ、日本社会は超監視社会になってしまうことを確信したからです。さらに、現在は、マイナンバーの利用範囲は、税と社会保障などに限定されていますが、この制度を放置しておくと、利活用はどんどん拡大していき、将来の日本社会に重大な禍根を残すことになると思ったからです。

 とくに、法律関係書籍編集の仕事をしていますので、警察捜査について見聞きすることがあります。現在の捜査方法の一つに、被疑者や関係者の携帯電話の任意提出を求めたり、押収して、送受信の番号の調査やメール文書の取出しをしています。

 先日、ある弁護士から、こんなことを聞きました。刑事事件の依頼者(被疑者)の配偶者が別件で逮捕された際、押収した配偶者の携帯電話から配偶者が他の人とやりとりしたメール文書をすべてプリントアウトしていたそうです。警察は、それを配偶者には許可を得ずして依頼者(被疑者)に見せたということです。

 内容自体は依頼者の刑事事件には関わりないことであったが、刑事は「おれたちはこんなことまで全て知っている」と、依頼者に圧力をかけてきたそうです。配偶者の別件は起訴されなかったため、メール記録は法廷には出て来なかったので、問題とすることができなかったということです。

 このように、警察は、依頼者やその関係者の行動記録を無制限に集めていることがわかります。マイナンバー法は、その9条5で、刑事事件で捜査の目的のために利用することができるとしています。

 GPS捜査最高裁大法廷(2017年)判決は、GPS位置情報はプライバシーにあたると判断しています。そうであれば、マイナンバー制度は、税や社会保障ばかりでなく、健康や消費行動など社会生活上の全行動を記録するGPS装置になる危険性をもっていますから、違法、違憲と言わざるをえませんと、意見陳述を締め括りました。


 危惧していた利活用の拡大は、もうはじまっています。政府は行政手続オンライン化をめざすとして利用拡大法(2019年5月)を立法化しました。それによって、マイナンバーカードを健康保険証として利用可能にすることや戸籍情報のオンライン化を推し進めています。

 健康保険証の「オンライン資格確認」は、マイナンバーカードに登載されている電子証明機能を利用するもので、2021年3月から実施の予定です。医療機関の受診の際に提示すると、オンライン資格確認センターに送信して保険証の内容を確認するものですが、それだけにとどまらず、政府は、その仕組みを利用して医療や健康の個人情報を管理・共有し、さらにはビッグデータとして民間会社に使ってもらおうと意図しています。慎重に取扱いを要する個人情報である医療・健康情報を、本人の同意もなしに目的外利用するのは、明らかにプライバシーの侵害です。

 マイナンバー制度違憲訴訟の舞台は控訴審に移っていますが、以上の点もさらに訴えたいと思います。


*マイナンバーカードの交付枚数は、2019年11月1日現在、1823万3942枚、人口が約1億2744万人で、交付率は14.3%にとどまっています。




出版協副会長  成澤壽信(現代人文社

207回の閲覧

最新記事

すべて表示

装丁家の死、パッションそしてレクイエム(ほんのひとこと)

今年(2021年)7月5日、装丁家でイラストレーターの桂川潤氏が他界した。報道によれば、クリスチャンである妻のふみ子さんが旧約聖書の「コヘレトの言葉」を捧げたという。奇しくも『装丁、あれこれ』が最後の著作となった。 わたしが桂川氏に装丁を初めて依頼したのは、ミズノを退社して起業したばかりだった根本真吾氏の著書『アメリカでプロになる!』であった。初刷部数が少ないのでコストを切り詰めざるを得ないという

オリンピック開催前に連続した辞任、解任について思うこと(ほんのひとこと)

始まりは今年の2月の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗元総理の会長辞任であった。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性は競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言うと、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」と発言をして批判をあびた。オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現だったと謝罪をし、会長の辞任は否定するも、一度は静観したIОCの「不適切で(男女平

身辺雑事だけど歴史的な意味あること(ほんのひとこと)

●リモート開始から15カ月 2020年3月、新型コロナ蔓延の兆しに、リモート体制を導入した。グループ4社の内1社を独立させ、3社のスタッフのうち、①自宅リモートに専念する者、②これまで通り通勤する者に分かれた。 神田神保町のオフィスに常勤する者が3分の1、10人程度になったため、年額800万円からの家賃は、寸法に合わなくなった。 毎日社員が来て、相互に顔を見合わせながら仕事をしてきた慣習が、リモー