年頭に考えた、小社が持続するための解を考える取っ掛かりとして(ほんのひとこと)

 1955年、複数の社の社長が相談の上に立ち上げたのが、「合同」出版社だった。限定された刊行(ソ連の『経済学教科書』)のための社だったが、今年で65年が経った。後半の32年、代表をしている。

 合同出版のグループ会社で創刊50年になる月刊「食べもの通信」と創立11年になる合同フォレストの3社、30人ほどの陣容だが、今後どう経営を持続していくか、年頭に当たっていろいろと考えた。

 期待している状態はごく単純なもので、今のメンバーが、やりがいを持って働き、望むらくは社会の要請(刊行したものが売れていくこと)によって、社のスタッフが増えていくことだ。このためにしなければならないことはなにか、その具体的な「解」がすぐには出てこないとしても、何が重要かを考えたいと思った。

 この2年余り、ある会からご案内を戴き、概略「事業継承にどんな手を打っておくかセミナー」「あなたのコミュニケーション能力を高めるコーチング講座」の2つを連続して受けた。

 ①会社の経営状態の分析と評価方法、②経営者のあり方と自己分析、スタッフとの意思疎通の手法の2つの知識に接したが、とても勉強になった。知恵を授けてくださった講師には、感謝の念が尽きない。

 ただし、知恵を分けて戴いても、自分の力で応用していかなくては、ただ判断が揺れる要素が増えるばかりだろう。拳拳服膺して自分のマニュアルにしたいと思っているが、その知識も応用して重要点を整理してみた。


■私が原理にして来たことは何か?

 ①読者が読んでよかったという(著者の満足でも、ましてや担当編集者の満足でもない)本をつくること

 ②読者(社会)が社会の進歩に寄与するために必要な本をつくること

 ③①でも②でもなく、あまつさえ担当編集者(自分)の意に染まない本はつくらないこと

 ④上記の要件を自在にコントロールできる見識と編集技術を身につけること

 ⑤それにふさわしい情熱を保持し、研鑽を日々おこなうこと

 ⑥出版人であることを自身の課題にできないと感じたとき(誰であろうと)、情熱を失ったときは、身を引くこと


■今、社にとって留意すべきことは何か?

 ①売上を拡大することを求めない

 ②いやいや働いている、強制的に働かせているスタッフ(状態)があるとすれば、本人にとっても、社にとっても良からぬことなので、早急に改善する

 ③自分と自分たちの身の丈に合った努力を積み重ねていくことで(満足的な)楽園にしていく

 ④協働によって楽園を持続的に、参加する人が増えてくるようにしていく

 一匹のカニは自分の甲羅の大きさでしか穴を掘らないが、人間の協働の効果に期待したい。何億年の時間の中で縁あって、時と場を一緒にしたのだから、その「相寄った魂」を、「愛寄る魂」として拡大していければと思う。


■出版業界のこと

 積年の問題点の積み重ねの中で、問題が多岐に渡り、出現している状態なので、とても一人、一社、一団体では整理できないであろう。

 いささか語弊のある言い方をすれば、各社、各業態で、自分のことを最優先して最善の「解」を見つけていくことが必要だろう。後塵を拝した者は、先人の「解」に学び、その上を乗り越えていけばよいと思う。

 生態学的には、一人ひとりが持続していくことと、全体が生き残っていくことは相関していると聞く。

 根拠のある悲観論や分析が聞こえてきて、それは真摯に受け止めていかなければならないが、諦めや自虐の対応からは、負の熱量は発散されるかもしれないが、事態を変えていくエネルギーにはならないだろう。


■あたらしい環境をつくっていくために

 コンピュータ技術とその人類社会への適応は今のところ、限界点がないようである。社の業務でもユビキタス(遍在の存在)になっている。私もスタッフもAIへのリテラシーを持っていないが、本をつくるため、本を普及していくため、諸外国にビジネスを展開していくために、コンピュータへの親和性を高めていく努力が必要である。電子書籍化だけの対応ではない、課題があるはずだと思う。

 年頭に当たって、1年後、5年後がどのようになっているか、楽しみにしている。

 もし、それが満足的状況として出現しているとすれば、先駆者の人たち、知恵ある人びとから学び、それを自分のものにした結果だろう。

 悩んでいる暇があったら、山に入って柴を刈れ。山より大きいイノシシは出ない、という父子相伝の諦観の念を身に付けることが不可欠なのだろう。



出版協副会長  上野良治(合同出版

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