本の周辺――新型コロナウイルス禍その2(ほんのひとこと)

 2011年6月、「群像」誌上の川上弘美「神様2011」に大きな衝撃を受けました。デビュー作「神様」で描かれた長閑な世界は、原発事故により、表面上は長閑なままに根本的な変容を迫られます。今回の新型コロナ禍に際し、人の考え方、生き方、ひいては世の中全体が根底から変わることを予感します。


 新型コロナウイルス感染症拡大により、緊急事態が宣言されて約ひと月。当社は仕事の95%を在宅に切り替えて営業中です。電話とファックスは転送し、郵便物は週1~2度確認。不便なこともありますが、パソコン一台あれば「ある程度のこと」は在宅でもできてしまいます。「会社」に固定される働き方だけが選択肢ではないのだと、平日に手をつけることのなかった洗濯物を干しながら、考えたりもします。


 一方で、物流や印刷現場の方達は、在宅勤務などしようもありません。自分にできることは外出を控えることくらいですが、自分達だけが安全(と感じられる)場所にいることの違和感は拭えません。


 そうはいっても、手を止めている時間も、泣き寝入りする時間もなく、できることをするしかありません。出版社が直面する問題についても、様々な取り組みが始まっています。 営業上の問題に関して、さる4月22日、出版協プレゼンツ「第1回営業困ったことZoom会議」が開かれました。計9版元16名が参加し、各版元や書店の現状・対応・対策、webを使った新しい販売方法などが紹介・議論されました。第2回目以降も開催が予定されていますので、ぜひ情報交換の場としてご活用ください。


 また、4月24日には、阿久津隆氏、内沼晋太郎氏、大高健志氏、武田俊氏、花田菜々子氏により、全国の書店を支えるための「Bookstore AID基金」が立ち上げられました。4月30日からクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」にて、プロジェクトがスタートしています。他にも多くの取り組みがなされていることと思います。


 編集の上でも様々な問題がありますが、特に当社にとって大きな問題は図書館の休館です。校了が見えている本はまだ良しとして、企画中~校正初期段階にある本は、図書館で仕込みや調査ができなければ、今年の秋口以降の売り上げに大きく関わります。活用頻度の高い国立国会図書館は3月5日以降(関西館と国際子ども図書館は4月11日以降)無期限で休館となり、4月15日をもって郵送複写のサービスも休止しました。公共図書館もその多くが休館となっています。5月3日現在でも、東京都立中央図書館と大宅壮一文庫とが郵送での複写を受け付けていますが、ここに負担が集中するのは必然で、現場の方たちの苦労と不安は察して余りあります。


 少しでも役に立てばと、4月1日から、当社が運営する「雑誌記事索引データベース」を無償公開しています。ざっさくプラスは、明治初期から現在までに刊行された雑誌の目次を一括検索できるデータベースです。現在、大学図書館を中心とする国内外の約200機関で契約されています。契約図書館にとっては、無償公開期間と契約期間が重なってしまうため、これが容認されるか否かが最大の懸念点でしたが、今のところ反対意見等はありません。むしろ好意的に受け止められ、契約図書館も積極的に情報拡散に協力してくださり、有難い限りです。


 海外に目を向ければ、各国の国立図書館では、既に様々な対策がとられています。対象と期間を限定して、著作権保護期間中のデジタルアーカイブを無償公開したり、商用オンラインデータベースを無償公開したりし、「本」へのアクセスを担保する、何かしらの取り組みを行っているのです。 この問題について、出版協は4月27日に「ICTを活用した資料へのアクセス環境整備に関する声明」を出しました。様々な声を吸い上げ、多少なりともこの現状の不自由が解消されることを願います。


 出版者の最大の関心事は「新刊とその流通」ですが、本を作るに際しては図書館も古書店もよく使いますし、図書館は一つの大きな購入先です。社会がこのような厳しい局面にある時には、広い意味での「本の周辺」の問題を、業界の垣根をこえて、考えていくことができたら……そんなことを夢想しながら、社員全員の感染リスク低減に努めつつ、目の前の仕事に、無力にも押し流されていく日々です。


 皆様も、くれぐれもご自愛ください。



出版協理事 晴山生菜(皓星社

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