休館しない図書館を(ほんのひとこと)

 今回のコロナ禍により、図書館の休館・利用停止が相次いだ。図書館職員や利用者の安全のためには、止むを得ない措置であるとはいえ、休館・利用停止が長引くなか、学生・研究者をはじめとする幅広い利用者、そして出版活動においても執筆や校正・校閲にあたって支障が生ずる状態が生まれた。特に4月15日の国立国会図書館の遠隔複写受付休止以降、資料へのアクセスの困難はより大きなものとなった。


 出版者団体として、対策を考える中で、学生・研究者ら図書館利用者が、国立国会図書館が図書館に限定送信しているデジタル化資料を、緊急的措置として、図書館外からも利用可能にすることを求めていることを知った。国会図書館はデジタル化した資料(概ね1968年頃までの資料がデジタル化されているという)のうち、著作権保護期間が切れたものを一般に公開するとともに、著作権保護期間内ではあるが、絶版などで市場で流通していないと国会図書館が認識した資料を図書館に限定配信し、館内での利用ができるようにしている。この図書館限定配信資料を、一般からアクセスできるようにしてほしいという要望だ。

 私たち出版協は、前身の流対協時代から、国立国会図書館の資料のデジタル化とその活用については慎重であるべきだとしてきた。復刻・翻刻などの出版や、出版物の電子化などへの影響を考えてのことであり、その考えは変わっていない。ただし、今回のコロナ禍のなか、図書館休館が続くなかでは、国立国会図書館のデジタル化済み資料のうち、公立図書館・大学図書館の端末での利用のみ可能の資料について、特例的に期間限定で、図書館外からも利用可能にすることが現在および将来の研究、執筆、出版活動(等)に資すると考え、4月27日に声明を出すとともに、5月29日には国立国会図書館あてに検討を求める要望書を送付した。


 国立国会図書館からは5月27日付で声明に対して、図書館限定配信のデジタル化資料を、一括で一般からアクセスできる状態にすることは著作権法上不可能だが、出版者・著作権者が認めるものについては、個別に一般からアクセスできる状態にすることが法的、技術的に可能との回答があり、図書館限定配信されている出版協会員27社の著作物リストが提示された。

 出版協では、対象会員社に検討を依頼するとともに、国会図書館と具体的な扱いについて協議を重ねた。

 実際には、デジタル化資料を一般公開することについて、(1)著作権者の承諾が得られ、版元としても承諾する出版物を、著作権者情報を付して国会図書館に通知、(2)国会図書館が著作権者に文書で「許諾依頼状・回答用紙」を送付、(3)著作権者から国会図書館に許諾回答が届き次第、対象出版物を一般からアクセス可能な公開状態にする、という流れで7月15日、2件の公開が始まった。

 このかん、図書館の状況はだいぶ変化しているが、公開期間は、「多くの図書館が休館している間」とし、インターネット公開後、感染状況等を鑑みて、著作権者から出版協を通じて申し出があった時点でインターネット公開を取りやめることにしている。


 今回は他に有効な手段がないことからこの取り組みとなったが、これはあくまで今回限定の緊急措置であると考えている。今回のコロナ禍を教材に、そもそも長期の休館、利用休止に至らない、感染症にも強い図書館へと対策を練っていただくことこそ第一だと思う。



出版協会長 水野 久(晩成書房

72回の閲覧

最新記事

すべて表示

取次店に関するモヤモヤ(ほんのひとこと)

5月1日から丸善ジュンク堂書店のメイン帳合が楽天ブックスネットワークからトーハン、日販の2社へ変更になった。 3月上旬に版元各社に流されたファックス「取引帳合変更のご案内」には、「旧大阪屋時代から長きにわたり楽天ブックスネットワーク株式会社様とお取引させていただいておりましたが、今般先方より取引条件の大幅な変更の申し入れがございました。弊社といたしましては申し入れに対し応じる事は出来ず、やむなく取

「著作権法改正案に対する出版協の見解」をまとめるにあたって(ほんのひとこと)

現在、国会に提出されている著作権法改正案(以下、改正案)について出版協としての見解をまとめるために、この数ヵ月を要した。一から改正案提出にいたった経緯やその内容を文化審議会著作権分科会の審議録や報告書などから読み取るため時間を費やしたからである。論点整理をした後、理事会内の出版の自由・出版者権利委員会で議論し案文をまとめ、それに基づいて出版協理事会で議論した。ようやく4月28日に発表に漕ぎつけた(