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総額表示は「一覧表で」(ほんのひとこと)

 書籍については、消費税外税表示こそが合理的であることは、消費税導入以来の経緯を振り返れば明らかだ。



 1989年の3%消費税導入時、表示について法的には定めがなかったにもかかわらず、公正取引委員会は総額表示をするよう強い指導を行った。出版各社はカバー等の印刷し直しや、既刊本のシール貼りに追われるなど多大な負担を強いられた。その負担に耐えきれず、絶版となった書籍は2万タイトル以上とされている。


 出版協の前身の出版流通対策協議会(流対協)は、消費税総額表示の強制に反対の声をあげた。流対協会員社35社は「内税表示」を強制した公正取引委員会を相手取り、損害賠償請求の訴訟を起こし最高裁まで争った。9年がかりで損害賠償請求は棄却されたが、判決では「公取委が示した「内税表示」は法的拘束力も強制力もなく、こうしたほうがよいと例示しただけのただの公表文である」とされ、公取委の「指導」の強制力は否定された。裁判中の1996年には、流対協の要求により公取委も「定価 ◯◯◯◯円+税」等の外税表示を容認することになった。


 1997年、消費税が5%に増税された。3%の総額表示は「誤表記」となった。この時を機に、多くの出版社が外税表示を採用。外税表示の合理性が出版界の共通認識になったと言えよう。



 外税表示方式は、書店での混乱や読者からのクレームもほとんどなく、広く浸透していった。にもかかわらず、消費税法の改定により、2004年4月から総額表示の義務化が始まった。罰則規定はないものの、今度は法的な義務化である。


 大手出版社等は、カバー等の表示は外税表示のまま、スリップのボーズに総額を表示する方式を採ったが、流対協は外税表示の合理性を主張しつつ、取次店や書店に対し、定価表示による流通上の差別を行わないよう要請した。


 結果として、総額表示義務が実施されて以降も、カバー等は外税表示のまま、一部の本にはスリップに総額表示があるという状態で混乱なく推移した。



 その後、消費税が8%、10%と2段階で増税されることが決まり、それに伴い、「消費税転嫁対策特別措置法」が2013年から施行された。外税表示の期限付き容認だった。総額表示義務の下では税率改定に伴う負担や混乱を避けられないため、増税への反撥を避けようというものだ。総額表示の非合理性を自ら認めているに等しい。


 特措法によって総額表示義務が期限付きで解除されたことは、多くの出版社にとってあまり意識されなかった。前述のように、多くの出版社は総額表示義務化が始まってからも、外税表示のままだったからだ。そして、スリップのボーズに総額を表示していた出版社の多くも、2段階の税率改定にあたって、総額表示をやめてしまった。それでも現在に至るまで書店の現場でとりたてて表示をめぐる問題は起こっていない。書籍の外税表示は20年以上の実績を経て定着しているのだ。



 「消費税転嫁対策特別措置法」の期限切れが迫ってきた昨秋以来、出版協では、外税表示の恒久化を求めて活動をしてきた。声明を発し、政府や各政党の税制調査会に要望書を届け、国会議員への陳情、出版関連業の多い千代田区・文京区への陳情などを行い、可能な限りメディアへの発信も重ねてきたが、特措法の期限延長は勝ち取れておらず、4月1日から総額表示の義務化が復活しようとしている。



 書協はスリップのボーズ、スリップを廃止した場合はスリップに類似したしおりへの総額表示等をガイドラインで示しているが、出版協としては、4月以降の新刊についても、個々の書籍への総額表示を会員社に対して推奨しないことにした。無駄な労力と経済的負担はかけられないためだ。


 しかし、罰則規定はないとはいえ、総額表示をしないことは「違法行為」にあたる。解決法として、書店店内掲示用の「総額表示一覧換算表」を用意し、店内での表示をお願いすることとした。アパレル業界や音楽CD業界などで、移行期における外税・総額表示の混在状態の対策として取り入れている方式を参照した。書籍の場合、新刊にどのような表示をするにしても、多くの既刊本は外税表示のままになるのは確実で、「混在状態」を解消するのはほとんど不可能と思われる。そのため「一覧表」をもって総額表示することが合理的だと判断した。


 実際には「総額表示一覧換算表」がなくても、現状のままというだけなのだから、2004年の義務化開始の折りと同様、書店店頭で何か混乱を生じることは考えにくい。だがもしも、総額がわからないとの読者のクレームがあるとすれば「総額表示一覧換算表」はそれに対する備えにはなると考えている。


 この「総額表示一覧換算表」は、近日中に、出版協ウェブサイトからダウンロードしてご活用いただけるよう準備中である。希望があれば印刷してお届けすることにも対応する。



 出版協では、今回の義務化の再開にあたって、取次、書店に上記の考えと対応を説明し、表示方法を理由に流通上の差別を行わないよう、2004年の総額表示義務化開始の時と同様の対応を要望している。取協からはすでに、価格表示方法の違いにより流通上で差別を生じさせることはない旨の回答を得ているが、この問題は、読者と直接対面する書店の皆様のご理解・ご協力こそ鍵となるため、説明と協力の要請を重ねていきたい。


 その上で、出版協としては今後も読者と世論に向けて、書籍における外税表示の合理性への理解を求めるため働きかけ、他の業界とも連携して総額表示義務の撤廃を求め続けていく決意である。



出版協会長 水野 久(晩成書房

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