消費税総額表示の問題でもめていた頃、消費税をめぐっては、実は表示の問題以上に「インボイス方式」の義務化の方が大きな問題になることが指摘されていた。
インボイス方式の私たち中小出版社への影響を確認しておこう。
消費税の年間納付税額は、「税抜売上高×消費税率」から「税抜仕入高等×消費税率」を引いた金額だが、インボイス方式では、控除できる「仕入額等」はインボイス=「適格請求書」のあるものに限られる。
適格請求書には、現在の通常の請求書内容のほか、発行する事業者の「登録番号」、「消費税額、適用税率」の記載が必要とされる。「登録番号」は、事業者が所轄税務署に申請して、交付してもらうことになる。
出版社の場合、印刷費・製本代・用紙代などについては、ほとんどの業者が登録番号を取得すると考えられるので問題になることは少ないと思われる。
問題になるのが「仕入高等」などにあたる著者への原稿料・印税、編集者・デザイナー等への報酬などだ。こうした支払いに際しても、消費税の計算にあたって売上額から控除するためには「適格請求書」が必要になる。なければ、支払額分の消費税を出版社が負担することになるのだから、影響は大きい。そうした皆さんにも「適格請求書」の発行をお願いすることになる。
ところが、適格請求書を発行できるのは、消費税の課税事業者だけと定められている。つまり、年間売上高1000万円以下の免税事業者は発行できないのだ。発行するためには、課税事業者になることと引換えに税務署から登録番号をもらわなくてはならない。当然、毎年消費税の申告をし納税する義務を負うことになるのだから、免税事業者の場合はみなが登録を行うとは考えにくい。
出版社としては、相手が免税事業者であっても適格請求書の発行をお願いせざるを得ない。それはつまり「先生の年収は存じませんが、1000万円以下であったとしても課税事業者になってくださいよ」という税務署の手先のような気の進まないお願いをすることになる。
あるいは、「適格請求書がないなら、支払い金額についての消費税を私どもが負担して納税することになりますから、その分、支払いを減額してくださいよ」と、これまた互いに気分の悪くなるお願いをすることになるかもしれない。
さらには、仕事をお願いする先を適格請求書の発行できる登録事業者に替えるということにもなりかねない。小規模事業者を取引から排除したり、事務的経済的な負担を増加させたりすることになるのは明らかだ。
インボイス方式を採っている仏・英・独などでは、免税点水準以下の小事業者の多くが生き残りのために「免税の放棄」をしてインボイスを発行できる課税事業者を選択しているという。事実上、インボイス方式は免税業者をつぶす仕組みである。
発注先だけでなく、出版社側も、仕入取引について、控除できる課税仕入か否かの判定作業や適格請求書の確認作業など、これまでの帳簿方式では不要だった事務負担がのしかかる。
ここまでの話は実は「仕入額控除方式」原則課税での納入の場合の話だ。年商5000万円以下の簡易課税の出版社の場合は事情が異なる。簡易課税の場合は、仕入税額控除を一定の割合(出版社は70%)で引くので、適格請求書を求める必要はない。ただし、取次への請求などは適格請求書を求められるだろうから、簡易課税の出版社も登録番号は取得しなくてはならないということになる。当面、簡易課税は残されるというが、帳簿方式のアバウトさをつぶすインボイス方式を採用するなら、本来帳簿方式よりアバウトな簡易課税は相入れないはずだ。消費税納付業者の約4割=120万事業者が選択しているという簡易課税方式はインボイス方式とは相容れるものではなく、廃止、あるいは適用範囲の引き下げが検討されているという。
2023年10月開始とされ、既に10月から登録番号取得の受付が開始されたインボイス制だが、免税業者をつぶし、簡易課税方式廃止・縮小、そして消費税増税への地ならしとなるこの制度は受け容れがたい。
出版協会長 水野久(晩成書房)
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