神保町ブックフリマ2021顛末記(ほんのひとこと)

 初めて自分の手でものを売った記憶は、小学校中学年頃まで遡る。テキヤの親分だった祖父が仕切っていた地元の祭りで、同い年の従姉妹と一緒にヨーヨー屋台の売り子をした。自分の手で、赤、青、黄、白、紫……色とりどりの丸いヨーヨーを手渡すことが楽しく、また売上から貰える小遣いが嬉しくて、毎年夏祭りが楽しみだった。


 今思えば、売上の中から決して少なくない額の小遣いを貰っていた気がする。隣の屋台では、年上の従兄弟たちが金魚掬いの屋台を任されてガンガン稼いでおり、同様にそれなりの額をもらっていた。祖父にとって、孫たちに遊ばせていた屋台は営利目的ではない、別の何かだったのだろう。それが巡り巡って、何かの形で祖父の役に立っていたかどうかは、もう知る術がないのだけれど。

 直接販売をすると、そんな幼い記憶が思い出されてくる。


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 今年10月最後の連休に、神保町ブックフリマ2021に出店した。事務所を開放(!)し、自社の既流通本を販売するほか、皓星社メールマガジン連載陣の書物蔵さんと森洋介さんの古本販売、小林昌樹さんのレファレンス実演配信を行なった。企画も含め、たいへん面白い2日間になったので、報告がてらその顛末記を書いてみたい。


 この神保町ブックフリマのはじまりは昨年10月。新型コロナ禍で恒例の神保町ブックフェスティバルが中止になった際、白水社さんが「読書の秋なのに古本まつりもブックフェスティバルもない神保町なんて寂しすぎる…ということで社屋で勝手にガレージセールをやります!」とツイッターで発信した。これがきっかけになり、賛同する出版社が「それならば」と自発的に始めたガレージセールが、神保町ブックフリマだ。昨年に引き続き、今年もブックフェスティバルは中止になったので、神保町ブックフリマ2021が開催されることになった。


 弊社は昨年、同じビルの彩流社さんの1スペースをお借りして出店させていただいた。それはそれで面白かったけれど、10月の半ば頃まで、今年は出ない方向でと考えていた。例えば同じ訳あり本の1割引でも、定価が高ければ値引額は相対的に大きくなる。2000円の本の2割引より、5000円や1万円の本の1割引に心動かされるのが人情というものだろう。それなら、弊社の本は1冊でも書店さんで売れる方がよく、我々も休みは休んで、営業日に一所懸命仕事をしたほうがいいのじゃないか、と考えていた。


 話がちょっと逸れるのだが、弊社のメルマガで、もと国会図書館員の小林昌樹さんが「レファレンス・チップス」を連載してくださっている。図書館やネットを活用しての参照のコツ、参照の秘訣についての文章で、弊社メルマガの「看板連載」になっている。いつだったか打ち合わせの席で、「いずれ図書館以外の場所で、その場で質問に回答するレファレンス実演のようなことをやってみたい」 という趣旨のことを、小林さんが言われたことがあった。


 1週間前になって、ふと、ブックフリマで小林さんにレファレンス実演をやってもらったらどうかと思い立った。小林さんは「面白そうだからぜひやりましょう」とふたつ返事で返してくださる。「それならば」と反応したのは、社員の河原努(メルマガで「趣味の近代日本出版史」を連載中)で「書物蔵さんと森洋介さんに、古本の複本を売ってもらったら」という。こちらも二人とも快諾で、そこからトントン拍子に話が進んだ。古本を運び込んでの準備は、さながら文化祭の前夜祭。


 ブックフリマの2日間、いままで弊社ツイッターを中心によく反応をくれていた方、メルマガを楽しみに読んでくれている方、著者や同業者の方々、これから書き手になってくれそうな方、色々な方が来てくれた。お客さんと書物蔵さん、 森さんとで出版史の話に花が咲いたり、小林さんがレファレンス実演(一部配信)をしてくださったりし、人の出入りがほとんど絶えなかったように思う。たまたま上京されていた、社員さんの親御さんも来てくれた。


 日曜日の夕方には、少し社を抜けてほかの出店社を見に行った。事務所をおおっぴらに開放したり、古本を売っている会社は他になく(まあ、それは、そうだろう)結構目立っていた。一方、時間帯によっては身内で話が盛り上がってしまい、入りづらい人もいたかもしれない。


 結果、売上は昨年とほとんど変わらないものだった(ただし昨年は自社本しか売らなかったので、利益は今年の方が低い)。だが、無形の収穫という意味では、昨年よりも今年のほうが大きかったし、やるほうにも、面白みがあったと思う。


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 土日の人件費などをマジメに検討すれば、数字上は、割に合わないということになるだろう。だが、利益を追求する仕事、そうじゃない仕事の組み合わせで一つの事業が成り立つのだとすれば、直販イベントのこのような活用法は「アリ」だなと思うのである。来年のブックフリマ、あるいはブックフェスティバルが再開された暁にはどんな面白いことをしようか、と頭の片隅ですでに作戦会議が始まっている。今年弊社に足を運んでくださったみなさんには、この場をかりて改めてお礼を言いたい。



出版協理事 晴山生菜(皓星社

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