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図書館等公衆送信制度の「補償金」は、誰が負担するのか?(ほんのひとこと)

 周知のとおり、昨年5月、図書館資料の一部分を権利者の許諾なく公衆送信できるようにする「図書館等公衆送信制度」を創設する「著作権法の一部を改正する法律案」(以下、改正案)が可決された(施行は、2023年4月)。


 当時は、国会での審議内容を十分フォローできていなかったので、最近、あらためて国会の審議録を読んだ。というのは、法案説明資料を読んだときから、不思議に思っていたことがあったからである。


 それは、図書館等公衆送信制度では「補償金」を権利者に支払うことになっているが、誰がその補償金を負担するかである。法案説明資料によると、図書館が負担するのではなく、公衆通信を利用する側、すなわち図書館利用者である。利益者負担という原則から考えれば、当然のことに思える。しかし、それでよいのであろうか。


 従来、図書館利用者は、図書館に複写費用の実費を支払って図書館資料の複写物を受け取ってきた。図書館利用者の立場に立てば、データ送信する行為は複写物の伝達手段にすぎないと考えられる(著作権法上、本を借りる行為とその複製問題は別であることは横に置く)。補償額が大きくなれば、図書館利用者の負担は当然大きくなる。


 この点、審議過程でどのような質疑応答がなされるか注目して、審議録を読んだ。


 委員から補償金は誰が負担するかについて問われて、政府の参考人である矢野和彦文化庁次長が答弁している。


 補償金の支払い義務者は、著作物の送信主体である図書館等の設置者だと前置きして「補償金負担は、基本的に、送信サービスの受益者である図書館の利用者に御負担いただくことを想定しております。御指摘の図書館法の公立図書館の無料公開の原則との関係について申し上げれば、図書館の基本的なサービスは図書館資料の閲覧、貸出しであって、これについては無料ということが維持される一方、今回の改正によるメール送信につきましては、あくまでも付加的なサービスであること、当該送信に係る補償金は、現行の図書館資料のコピー、郵送サービスにおける印刷代、郵送代と同様、実費として捉えられるということなどから、特段の問題は生じないものと考えております」(5月14日衆議院・文部科学委委員会議事録発言番号060)。


 はっきりと図書館利用者の負担であると答弁している。ここでは、「付加的なサービス」としているが、これでいいのか。もやもやしたものが残った。この問題を考えるにあたって、「補償金」の性格から検討しなければならないと思い、いくつか著作権関係の文献を読んだ。そのとき、「補償金」について、かつて議論となったことがあったことをはじめて知った。


 「図書館=無料貸本屋」論が出版社側から沸き起こった2000年代の初めのころである。公共図書館での書籍の無料貸出しが、出版市場にマイナスの影響を与えているとの意見が権利者や出版者から強くあったため、文化庁が動き出し、それに対処するために公共貸与権(「公共貸出権」や「公貸権」ともいわれている)が議論された。


 文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)に提出された「公共貸与権に関する事務局説明資料」(2021年1月21日、文化庁著作権課)によると、「現在我が国においては書籍等に関する公共貸与権制度は導入されていないが、平成15〔2003〕年文化審議会著作権分科会において審議されている」と前置きして、現行の著作権法では、「映画の著作物」の非営利・無料の貸与については図書館等が補償金を支払うこととされている(著作権法第38条第5項)が、一般の書籍等の映画以外の著作物については補償金の制度はない、と解説している。


 そして、著作権法38条5項に規定されているような非営利・無料の貸与に係る補償金制度を将来「書籍等」に拡大することによって対応するという方向性そのものに関しては、図書館の増加、図書館における貸出数の増加等により、本の購入が図書館から貸出により代替される傾向が強まり、著作権者の利益に対する損害が大きくなっていることを理由として、同審議会法制問題小委員会において基本的に反対はなかった、という。しかし、権利者側・図書館側双方に、具体的な補償金制度等の在り方について協力して検討したいという意向があることから、当面その検討を見守り、そこでの結論をまって必要な法改正を具体的に定めたい、としている。


 この公共貸与権制度は、イギリスやEU諸国において採用されている。多くの国では、補償金は国や地方自治体が負担する(詳しくは、南亮一「動向レビュー:公共貸与権をめぐる国際動向」https://current.ndl.go.jp/ca1579)。



 なぜか、公共貸与権制度の議論は、2005年の日本文藝家協会など文芸作家関係5団体の「図書館の今後についての共同声明」発表以降、低調である。著作権審議会での議論にも特に進展が見られない。


 この機会に、補償金とは何か、それを誰が負担すべきか、今回改正があった図書館等公衆送信制度と図書館の無料貸出制度との違いなど、公共貸与権制度についての議論を深めてはどうであろうか。




出版協理事 成澤壽信(現代人文社



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