異業種から転職した「新人」に直撃取材!(ほんのひとこと)

更新日:6月8日

 いまだ底を打つ気配を見せない新型コロナウイルス禍および出版不況。そんななか、当然だが日々の業務は鋭意すすめなければならない。版元も書店も取次もそれぞれがおかれた状況下で、さまざまな知恵をしぼりながら売上向上を追求すべく努力している。


 先般、弊社は諸般の事情から已む無くリストラを断行したのだが、やはりマンパワーの絶対的不足はいかんともしがたく、スタッフの若返り、業務の継承、さらには「出版」の理念的承継も視野に入れ、急遽、スタッフ募集をハローワークに提示したのであった。


 募集情報をみた数名の方から問い合わせがあり、大半は女性だったが、面接を経て最終的に採用となったのも女性だった。しかも異業種からの転職者。その新人スタッフに、久しく「不況」とされる出版界になぜ飛び込んでみようと決意したのか、その「意図」を直撃取材した。


――出版社の業務についての率直な感想は?


「出版界へきてみて、まず戸惑ったのは前の業界とは働き方がまったく異なっていたことです。以前、勤めていたのは食品工場で、そこでは一日のタイムテーブルがしっかりと定められており、流れ作業の上流で作業が止まると下流も止まってしまう共同作業でした。しかし、出版という仕事は基本的には個人でその進捗や出来栄えが左右されます。自身でコントロールできるということは常に《責任》という言葉がのしかかります。著者の言葉を正しく世間へ伝えるという責任、本を作った後も多くの人に読んでもらうため装丁や宣伝方法を考えねばならない責任、低迷する出版業界で新たな時代を引き継いでいくという責任。これらは重くのしかかるのですが決して嫌なものではなく、この業界で成長していくためには欠かせないものだと感じています」


――編集者についての印象は如何ですか?


「出版社に入ったばかりなので本の担当をしたことはありません。ですが先輩の《著者を守れるのは担当者だけ》という言葉が強く印象に残っています。その言葉は著者と編集者の間に信頼があるからこそ出た言葉だと思います。小説にせよ評論にせよ、自分の考えていることを世間に発表するというのはとても勇気がいることです。編集者の仕事とはそんな方の背中を押してあげることではないでしょうか。本というのはその人にとって一生のものになるはず。そんな本を一緒に出版して、《本を出版できて良かった》《次もまた担当してもらいたい》と言ってもらえるような編集者を目指したいです」


――本をつくることについてはどのように考えていますか?


「紙の本の売上が低迷するなか電子書籍が世に普及してきています。電子書籍は場所を取らず出版社としては印刷・製本代等がかからないという利点があります。そんななかでも紙の本を買いたいという人は少なからずいます。紙の手触りや匂いが好き、本棚に並べて楽しみたいなど、理由はさまざまです。電子書籍が一般的になっても紙の本がまったくなくなるということはないと思います。紙と電子、両方の売上をいかにして伸ばしていくかを考えるのが今後の出版界での難しいところであり、面白いところなのではないでしょうか。読者がいまどんなものを欲しているのかを調べることで可能性はどんどん広がっていくように思います」


――最後になぜ出版界へ転じようと決意したのですか?


「幼い頃から物語などを創作するのが好きでした。しかし、仕事となると義務感が生まれ、好きなままでいられなくなってしまうのではないかという思いもあり、目指せずにいました。社会人となって自分に合った職種が見つけられず転職を考えていたとき、《出版》の文字が目に留まりました。自分が生み出すわけではなくとも誰かの想いを形にする仕事ならばできるのではないか。自分一人では形にする勇気がない人のお手伝いならばできるのではないか。創作という好きなことのそばで働きたい、その気持ちを捨てきれませんでした。未経験の業界なので甘い考えだと言われるかもしれませんが、やはり好きなことを仕事にできるというのは働くことの原動力になっています。出版社に入って、業界の現状や歴史を知り、未熟ですが自分のためだけでなく、業界の今後を担っていかなければならないという責任も感じるようになりました。今後は広い視野を持ち、経験を積み、新しいことにも積極的にチャレンジしていきたいと考えています」


 警世の詩人曰く。〈我々は今最も厳密に、大胆に、自由に「今日」を研究して、そこに我々自身にとっての「明日」の必要を発見しなければならぬ。必要は最も確実なる理想である〉(石川琢木「時代閉塞の現状」)。次世代へ出版の理念を継承すること。そのためには努力を惜しんではならない。それは先人から受け継いだことへの恩返しでもある。期待の新人に託すことは大きい。



出版協理事 河野和憲(彩流社


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