top of page

本屋を面白くする方法? -米国の出版流通と比較して考える(ほんのひとこと)

「版元の経営課題を話すだけではなく、年々数を減らす書店数、縮小する業界をなんとかできないか。書店に対して何ができるか、本屋を面白くすることを考えるのも、版元の仕事ではないのか」との声を頂戴した。今年の8月に出版協が開催した「経営困ったこと会議」に参加した版元の方からである。


「経営困ったこと会議」は、昨今の印刷費高騰や、コロナ禍などで版元が抱えている経営課題に対し、各社がどのような工夫を行なっているかを情報交換する場である。30社以上が集まり「定価を上げる」「増刷時の部数を増やす」ことや、「不動産業で収入を増やす」といった経営マルチ化の事例も紹介された。しかし書店店頭を賑わす施策は話題にならなかったことから、前述の声が上がった。


 そこで早速、その方と出版協理事でブレーンストーミングを行なった。例えば米国と日本を比較してみる。今年、米国の書店業界は元気があるようだ。当社も世界に向けて本を輸出しているので元気なことを肌で感じる。オンライン書店も元気だが、独立系書店の売上も上がっている。いったい日本と何が違うのだろうか。


 米国ではコロナ禍はすでに過去のものとなり、店頭での消費意欲は旺盛ではある。しかし日本との根本的な違いは、米国書店の粗利率の高さにあると考える。米国は小売価格の5~6割の金額で書店に卸される。米国では再販制が無いので店頭価格は値引きされることもあるが、リアル書店ではあまり値引きされない。粗利率は4割程度だろう。日本の書店の粗利率は2割程なので、その倍である。

 現在の日本の書店の粗利率でも、本がよく売れていた時代は、取次業も小売業も成り立つくらいのスケールメリットがあったはずだ。しかし現在は、流通規模が縮小し、利益確保のために取次業・書店業ともにリストラが進む。人が少ない中、本を店頭に並べ、返品することに忙殺され、本を売ることを考える時間は日に日に失われていく。


もしも日本でも米国同様の粗利率が確保できたらどうなるか。4割の粗利率となると、小売店での商材として文房具や雑貨とよい勝負になってくる。アイデア次第で利益が増える余地が出てくる。すると経営者だけでなく、将来のある若い人や優秀な人が、本を売る商売を職業として選びやすくなる。そして現場の若い人や優秀な人が集まって本屋を面白くすることを考えたほうが、現場を知らない版元だけで考えるよりも、よほどよい知恵が出ると思う。考える時間を持続的に持てることこそが、店頭を賑わすために一番必要なことだと私は考える。


というような話をしたのだが、言うは易し。書店の粗利率改善をしようとしても、版元の意思だけではこの問題は解決しない。取次から書店への卸率は、取次と書店の間で決めることだからだ。仮に当社が取次への卸率を下げても、取次から書店への卸率はまず変わらない。当社が競合他社の中で一人負けするだけだ。全ての版元が取次への卸率を一斉に、不公平なく同じ率まで下げるならアリだとは思うが、大手版元が率先して動かない限り実現は難しい。独占禁止法に触れる可能性も高い。


 対する米国でも、取次(のような業者。ディストリビューター)が間に入ることもあるが、版元が書店と直接取引することも多い。いずれの場合も、卸率は書店と版元との合意で決まる。取次は、版元から書店への卸金額の10%~20%程度を手数料として受け取る契約のため、取次にとって「版元はお客様」となり、日本と立場が逆である。取引条件の交渉も、日本でよく起きる「版元・取次間の主張の平行線」ではなく、版元と書店間で納得ずくの、実に健全な話し合いとなる。卸率や返品可・不可の条件は、版元のスタンスによって異なる。「うちの商品は広く扱って欲しい」という版元は卸率低め・返品可に設定することで、量販店への出荷が主となる。「扱いたい店だけ扱えばいい」という版元は卸率高め・返品不可に設定するので、独立系書店での扱いが主になる。これによって量販店と独立系書店の選書の住み分けができ、粗利率も納得ずくのものとなる。


米国式が正解ということではないが、日本の出版エコシステムが疲弊していることは間違いない。SNSやサブスクリプション・サービスなど多様なメディアの出現によって可処分時間の奪い合いは激しくなり、少子化がこれに拍車をかける。かつてのスケールメリットは望むべくもない。従ってドラスティックな改革を行なう第三極を出現させるべきだし、その時、私たちは変化を歓迎すべきだ。すでに取次や大手書店チェーンでは報奨制度など粗利率改善の取り組みが進んでいる。中小独立書店でも力を合わせれば類似の取り組みはできるだろう。またデジタルの力を利用した販促など、出版業界にはまだまだやれることも、のびしろもある。あきらめず知恵を絞り続ければ、私たちには未来はある。



出版協理事 三芳寛要(パイ インターナショナル




閲覧数:310回
bottom of page