マイナンバーカードは異次元のカード(ほんのひとこと)

 河野デジタル大臣は、10月13日、2024年秋に現行の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと一本化した「マイナ保険証」に切り替える方針を発表した。それを受けてマスコミは一斉に「事実上の義務化」と大きく報道した。しかし、政府は「義務化」を口が裂けても言えない。というのは、法改正が必要だからである。


 総務省は、マイナンバーカードの交付枚数が10月18日時点で約6305万枚となり、全人口に対する割合が50%を超えたと発表した。2016年のカード交付開始から、5割超えるのに約6年かかった。しかし、これは以下の「利益誘導」の賜である。政府は、6月末から、1兆2千億円もの税金を使って、新規カード取得者らに最大2万円分のポイントを与える「マイナポイント第2弾」を本格的に展開している。


 「マイナ保険証」に一本化する方針も、カード交付数を増やすためのなりふり構わない方策と同じレベルにある。しかし、岸田首相は、国会で、「マイナ保険証」を持たない人に対して「資格証明書」という新たな制度を作ると明言した。


 ここには、カード所持義務化に対する政府の及び腰が見られる。政府はそんなにカードを普及させたかったら、法改正をして国民に取得を義務付ければいいのではと思う。しかし、なぜそれをしないのか。いやなぜすることができなかったのか、と問うべきだろう。



 その前に、マイナンバーとマイナンバーカードについておさらいしておこう。


 マイナンバーは日本に住民票を有するすべての人に(外国人も含まれる)付与される12桁の番号で、原則として生涯変わることがない。住民登録すればかならず付番され拒否できない。一方、マイナンバーカードは、住民の申請により無料で交付されるプラスチック製のカードで、カードの表面には本人の顔写真と氏名、住所、生年月日、性別が記載されていて、身分証明書としての機能を持つ。また、カードの裏面にはマイナンバーが記載されているので、税・社会保障・災害対策の法令で定められた手続を行う際の番号確認に利用できる。さらに、マイナンバーカードにはICチップが搭載されている。これを利用すれば民間事業者を含め様々なサービスに活用することができると政府はその利便性を謳っている。「マイナ保険証」もこのICチップを利用するものである。



 そこで、なぜ政府はカード取得を義務付けることができないのか。この点について、総務省は「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することになり、手法として適当でない」と説明している(2019年3月15日経済財政諮問会議第17回国と地方のシステムWG資料2-2)。あくまでも本人の自主性にまかせている。


 政府がこれほどまで気を使っているのはなぜだろうか。これを解明するには、国民総背番号(1968年)、納税者番号(1983年)、住基ネット(1999年)などの番号制度の一連の流れを見る必要がある。それぞれの制度の内容には触れられないが、いずれの制度においても実現が頓挫したり、普及に時間がかかった理由には、プライバシーの侵害や個人情報の漏洩、国家による国民の監視・管理の手段となるという国民の不安を政府は払拭することはできなかったからである。



 こうして政府は、マイナンバー制度においても、カード義務化を打ち出すことができなかった。その実現のために、この国民の意識を何とかしてやわらげようと、いやごまかそうと躍起になってきた。マイナンバー制度では、「公平・公正な社会」を実現することを目的とするという甘い言葉でごまかして、当初は、税と社会保障、災害に関する公的業務に使用すると3つの目的に絞り、法案を成立させることで手一杯であった。


 しかし、その後、政府は社会保障・税以外に利用事務をなし崩し的に拡大している。


 政府は、情報漏洩はない、セキュリティは完璧だとするが、これまでヒューマンエラーに起因するものも含めて何件もの漏洩事件が起っている。諸外国では、情報セキュリティ上、情報の分散管理の方向に舵を切っている。日本はそれと真逆の方向に走っているといえるだろう。


 健康保険証、つづいて運転免許証のマイナンバーカードへの一本化の動きはマイナンバーカードを身分証として全住民に持たせることを究極の目標としているのではないか。そのことによってすべての住民の個人情報を一元管理することを狙っている。


 現在、私たちはさまざまなカードを持っているが、マイナンバーカードはそれとは質・量ともに異次元のものである。今一度、ますます利活用を拡大させているマイナンバー制度において、自分の個人情報が政府によってどのように扱われるかに思いを馳せることは、政府のマイナンバーカード所持「義務化」への暴走を食い止めるささやかな抵抗になると思う。



出版協理事 成澤壽信(現代人文社



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