第204回国会提出「著作権法の一部を改正する法律案」に対する見解


 今国会に「著作権法の一部を改正する法律案」(改正案)が提出されている。

 日本出版者協議会は、文化庁の文化審議会著作権分科会が公表した「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に対する意見(2020年12月21日提出)で述べたように、改正は著作権者とその著作物を世の中に送り出す役割を担っている出版社の経済的利益に大きな影響を及ぼすものであるので、改正の必要性やその制度設計に関して、国会での慎重な審議を要望するとともに、主要な点について見解を表明する。


 改正理由は、「著作物等の公正な利用を図るとともに著作権等の適切な保護に資するため、図書館等が著作物等の公衆送信等を行うことができるようにするための規定を整備する」ことにある(今回の改正には、「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化」に関する項目もあるが、ここでは、出版に係る項目に絞る)。

果たして、早急に改正する必要はあるのだろうか。この点は、改正案提出にいたった経過と大きく関係する。


 同著作権分科会は、コロナ禍による図書館休館などで利用者の図書館資料へのアクセス障害が発生したことと、2020年5月27日の知的財産戦略本部(内閣府)の決定に後押しされて改正の具体的な検討に入ったものである。そして、同分科会は、その下に設置された法制度小委員会に、「規定の整備」(著作権法改正)の検討を委ねた。同年12月に、同分科会は「中間まとめ」に対する意見(パブリックコメント)を求めた後、2021年に入って「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書」を公表し、3月には最終報告をまとめたものである。

 同分科会は3回あったが、実質的には1回程度の検討であった。上記の意見募集には、出版業界からこのような権利制限は出版業を圧迫するとの強い懸念の意見が多数寄せられたが、それを踏まえて出版業界との意見交換もなく法案提出に至った。

このような拙速な改正作業には、図書館資料のデジタル化・送信による出版業への影響を十分検討している姿勢をうかがうことができない。このため立法事実(改正を必要とする事実)が十分明らかになっているとは到底思えない。

国会審議では、出版業界など関係者を参考人として招聘し、出版業にどのような影響があるのか具体的事例やエビデンス(根拠)を収集して、それに基づいて十分審議を尽くしていただきたい。


 つぎに、改正項目の主要5点について検討する。


 【改正項目①】 国立国会図書館による絶版等資料(絶版等により一般に入手困難な資料)のインターネット送信(ウェブサイト掲載)を可能とすること。

 改正案では、上記「絶版等資料」とは「一般に入手することが困難」であるかどうかで判断されるが、入手困難状態は出版物の性格や出版社の業務形態によりさまざまである。この点について出版業界の実態を調査するべきである。また、「絶版等資料」のうち3月以内に復刻などの予定があるものを除くことになっているが、3月は、出版の実情を考慮すると、あまりにも短期間である。「絶版等資料」になる場合として、「最初からごく小部数しか発行されていない」として郷土資料等が挙げられているが、これらは出版の可能性が十分あるものとして、除くべきである。このような例は相当あると思われるので、出版業界の意見を聴取すべきである。


 【改正項目②】 図書館等が利用者に対して、図書館資料(一般に入手可能な資料)を調査研究目的でその一部分をデジタル化しメール等で送信可能にすること。

 上記意見募集では、メール送信等は従来の複写サービスの延長線上にあるもので、利用者の利便性の向上のためには賛成であるという意見が見られる。しかし、周知のとおり紙の複写物に変わる電子データは、その質において天と地の差がある。電子データはその複写が簡便にかつ無制限にすることが可能である。改正にあたっては、つぎの点にしばりをかけるべきである。

・「調査研究」を厳密に審査すること。

・複写可能範囲について、「著作物の一部分」の解釈として著作物の半分といわれている従来の解釈を改めて、その範囲を絞り込むこと。


 【改正項目③】 上記②について、補償金制度が設けられること。

 補償金の額や支払い方法については、出版社の意見を十分聴取して、出版社がこうむる損害を補償するに価するものにすべきである。


 【改正項目④】 上記②について、正規の電子出版等の市場との競合防止のために、著作物の種類や電子出版等の実施状況などに照らし、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、公衆送信を行うことができない旨のただし書を設けるが、具体的な解釈・運用は、文化庁の関与の下で幅広い関係者によって作成するガイドラインによること。

 改正案は、その解釈・運用にあたって、この点にかぎらず、多くの点でガイドラインに委ねているが、国会審議では、その内容をできるかぎり明らかにし、精査するべきである。やむを得ずガイドラインに委ねるとしても、その策定にあたっては、出版業界が関与できるようにすべきである。


【改正項目⑤】 上記①②の実施にあたっては、利用者によるデータの不正拡散等の防止のために利用者の氏名・連絡先等の登録制度を設けること。

 この措置は著作権制限とは直接関連するものではないが、そこでは図書館によって利用者の氏名・住所や利用情報が収集される。こうした情報は、個人の思想信条の自由などにかかわるもので、保護されなければならない個人情報である。現在、国会でデジタル関連法案が審議中であるが、その関連法案では行政機関が収集・保管する個人情報について民間での利活用促進のために、個人情報保護を緩和しようとしている。制度設計にあたっては、自己情報コントロール権に基づいた個人情報保護を徹底すべきである。



 最後に、すべての人の知の創造に寄与するために、図書館サービスの発展と利用者の利便性を確保する上で、これまで図書館と出版社は協力関係を築き上げてきたが、今回の改正がその健全な関係を損なうことがないよう切に願うものである。


以上



2021年4月28日

一般社団法人 日本出版者協議会

会長 水野 久

東京都文京区本郷3-31-1 盛和ビル40B

TEL:03-6279-7103/FAX:03-6279-7104

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