今年9月に起きた、取次配本遅延の問題(見本出しから配本まで3週間以上かかった問題。2018年9月の「ほんのひとこと/秋の変」に詳しい)に関してその後、出版協は大手取次三社(日販、トーハン、大阪屋栗田)宛てに、何が起きたのか説明を求める文書を9月28日に送付した。これに対し、各社の仕入担当者から相次いで出版協へ連絡があり、説明を受ける場を設けることとなった。説明の内容はほぼ各社共通しており、すでに出版協会員社には配信している内容だが、業界で広く共有すべき事柄のため紹介したい。
1. 例年、3月、9月、12月は版元の決算期などがあり搬入量が多く、特に月の後半が多い。今年9月は例年より営業日数が2日少ないこともあり、業量が新刊ラインの作業上限を超えてしまった。
2. 以前より、取次から版元に対して、業量平準化の取り組みに伴う新刊配本の予約や調整について、取協・書籍進行委員会作成の『書籍 業量平準化』に関する情報提供を事前に行なってきたが、それが全ての出版社に行きわたっていなかった。9月10日以降、月をまたぐ大幅遅延となったことについても、告知の仕方に問題があった。
3. 11月以降は『書籍 業量平準化』に示したように、JPO出版情報登録センター(JPRO)の近刊登録を活用した新刊配本の予約、配本日調整を開始する。今後、版元にはJPROによる45日前の新刊情報提供と、特に月の前半10日までの搬入をお願いしたい。窓口での見本出しについてはこれまで通り「中2〜3日」を基本にし、調整をお願いする場合もある。月の前半と後半で業量に大きな差があり、前半の空きを利用して欲しい。
ここで『書籍 業量平準化』資料とは、「毎月下旬、特に19日~25日の搬入点数が多いため、平準化を行うことで書店や運送会社の負担を軽減したい」という内容で、小社には2017年10月の時点ですでに開示されていた。取次の搬入の現場や新刊ライン作業の現場を、業量が少ないときと多いときで対比した写真で見せ、現場の悲鳴が真に迫ってくる資料だ(この点は各版元共通配布の資料と異なるかもしれない)。また、業量把握のためにJPROなどを活用して搬入45日前には刊行予定を知らせて欲しい旨もある。さらに重要なのは、「20日以降の搬入は返品率が数パーセント上昇する」という事実である。小社は毎月10点ほど新刊があるが、この資料開示以降、基本的に月の前半に発売日を設定し、刊行予定を知らせ、知らせたのちは発売日を死守という姿勢を貫いている(とはいえやむをえない事情で発売が遅れるときはある)。そのため、9月の配本遅延問題には該当しなかった。次の業量のヤマは12月だが、どうなるかは誰もわからない。JPROの活用と言っても、小出版社には登録に手間も費用もかかる。それよりは取次に直接連絡したほうが早い。活用の結果もまだ見えない。出版協としては引き続き動向を追っていく予定だが、現時点で確実に言えるのは、10日までに搬入することだ。
なぜ月末の搬入量が増えるかと言えば、版元からすれば、取次への請求の締めに間に合わせようとするからと考えられる。であれば、締日を月末だけでなく15日にも設定すればいいではないかという話もあるが、それも無駄な手間を増やす話である。それより大切なことは、返品率の話だ。版元には物流や書店の現場を想像してみてほしい。ドライバーは取次で列をなす。ラインの仕分け、梱包の作業は深夜22時過ぎまで作業する(早いときは16時終了と時間が不安定なため人が定着しにくい)。そうして必死に書店へ届けられた新刊たちは、多いと1日で200タイトル以上になる。書店員は新刊を並べたいが、棚はすでにいっぱいだ。何かを返品しなくてはいけない。しかし売れ筋は返したくない。作業をしていれば昼も近づき、店内も混み合ってきて、顧客対応に追われる。ふと気づくと、未開封の新刊の段ボールが目につく。中を見る時間はあるのだろうか。腰も痛い。この新刊は、既刊をどかしてでも売れるものだろうか…。これはフィクションであるが、無い話ではない。即返品につながる情景は容易に想像できる。2018年も終わろうとしているが、人手不足は今後も解消するどころか、悪化する兆ししかない。賃金も上昇する。割に合わない仕事から業者は撤退していく。しかし出版には取次も書店も必要不可欠だ。物流の問題は版元が積極的に協力していくことでしか解決できない。
折しも今年11月、出版協の前・会長である高須次郎氏による『出版の崩壊とアマゾン』(論創社刊)が上梓された。氏が40年間、再販制度など、出版業界に必要なものを守るために戦い続けた歴史が克明に記されている。あたりまえだと思っていたもの、しかし失ってみてはじめて気づくような大切なものを守るためには、正しい知識と、想像力が必要なことがよくわかる、出版人必読の書だと思う。
出版協理事 三芳寛要(パイインタナショナル)
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