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「本はアマゾンで」でない未来を(ほんのひとこと)

 アマゾンジャパンが、1月31日、書籍の買切り販売を開始すると発表したと一般紙が報道した(2月1日)。出版社との直接取引で買切り、一定期間は出版社の設定価格で販売し、その後は、出版社との協議により値下げ販売する、という。アマゾンは、一昨年の「バックオーダー発注中止」に見られるように、この間、強力に出版社との直取引を進めてきた。その延長線上の施策だが、値下げ販売を公言したのは初めてのことだ。


 これまでアマゾンジャパンは、直接取引にあたって、日本の再販制度は尊重するとしてきた。その一方、プライムスチューデント10%割引(ポイントサービス)は、出版協の会員出版社の多くが再販契約違反として、自社商品の除外を求めてきたにもかかわらず、継続してきた。取次を間に入れた再販契約を結んでいても、ある割引販売サービスについて、それが再販契約違反であるかどうかは、各出版社の判断とされている。しかも取次店を間にはさんだ再販契約では、出版社とアマゾンは直接の契約当事者ではない。出版社にできることは、取次店を介して再販契約違反であることを通告し、自社商品について割引の対象から除外することを求めるということしかない。だが、プライムスチューデントについてこうした要求をした出版社に対して、アマゾンジャパンがサービス対象から除外することはなかった。こうなると出版社にできることは、取次店に自社商品のアマゾンへの出荷の停止を通告することしかなくなる。実際にはその選択はハードルが高い。再販契約の下、多くの書店のポイントサービスが1%程度である中、10%のサービスを行っても、出版社が出荷停止に踏み切るようなケースはほとんどないことをアマゾンは学習してきた。再販契約があっても、自社のポイントサービスは影響を受けず、他の書店は再販契約を遵守する中、消費者からも値下げを求められることはないのだから、「再販制度は尊重する」はずである。


 そして今回の買切り販売の発表だ。一定期間を過ぎた後は値下げ販売することを前提にした直取引は、当然、通常の再販制度の外側でのアマゾンと各出版社の個別取引であり、「協議」を謳っていても、力関係を考えれば実際の価格決定権はアマゾンが握ることになるだろう。どのくらいの出版社がこうした取引に参加するかは未知数だが、この取引が広がれば、本の定価に対する読者の感覚も変化することが考えられ、再販制度に与える影響は大きいと思われる。


 アマゾンは、出版社との直取引による商品確保、利幅の拡大に加え、買切りによる更なる利幅拡大、値下げ販売による返品回避と、書籍販売の自社戦略を固めている。出版社とアマゾンさえあればよい、という構図だ。取次や他の書店がどうなろうと、アマゾンの書籍販売は生き延びる構図。

 

 一方、出版業界全体で見れば、「生き延びる構図」は不透明だ。雑誌の長期にわたる不況の下、雑誌中心に組み立てられてきた取次の物流体制の行き詰まり、そして運賃の高騰。書店の減少は歯止めがなく、2018年は年間出店数が過去最低を記録したという。出版社・取次・書店三者が業界をあげて、物流について、利益構造について、再販制度について、問題を共有し、日本の出版業・出版文化が「生き延びる構図」を描いていく努力が、私たちに待ったなしで求められている。もし「本はアマゾンで買うものである」という未来を良しとしないなら、である。

出版協会長 水野 久(晩成書房

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