「すごいルール」は出版界を持続させ得るのか(ほんのひとこと)

最終更新: 2019年4月9日

いま、出版界の最大の問題が、「書籍の適正流通を目指して」(2018年3月、日販)で公表された取次の構造的赤字状況と、アマゾンによる「再販制浸食」「直取引勧誘」であるだろう。


 この2つは、相互に関連した問題でアマゾンとは何かと思っていたら、たまたま図書館の棚で目の入った『アマゾンのすごいルール』(宝島社、18年4月)を読んでみた。著者はアマゾン・ジャパン立ち上げ(2000年11月)のメンバーで、16年まで15年間在籍し、書籍仕入れ、倉庫業務の責任者をしていたというから、アマゾンの原始的母斑のようなものを知るのにはうってつけの本かもしれない。


 この本によると、アマゾンをアマゾンたらしめている基本原理は「コンシューマーズ ルール(お客様が決めるんだ!)だという。その証左に最上位の社員顕彰品には、創業者ジェフ・べゾスのサインとともにこの文言が刻まれているという。

 この本は、全文アマゾン礼賛なので、秘密の暴露や分析がないが、アマゾン・ジャパンの体質と行動原理がよくわかる。


 組織は部門別の縦割り組織。米国本社に各部門の決済者(SVP)、各国に各部門のトップ(VP)が数十人いる。その下にディレクターからマネジャーまでのいくつかの階層があるが、決済権限は米国本社ベゾスCEOと各部門決済者に集中しているとされる。内実はともかく、システムとしては統制がとれた日本軍の大本営・師団編成を想像した。悪しく転換した際は、無責任な個人決済と秘密主義の横行である。


 アマゾンの判断の基準は「お客様はそれを喜んでくれるか?」「それは本当にお客様にとって価値があるのか?」だと言う。その伝で言えば、流通上の顧客満足の究極は、ベゾスCEOがイメージするという「瞬間物質転送装置のある世界」だ。


 米国アマゾンの誕生が、自宅の車庫を倉庫代わりにしたネット書店だったわけで、本の流通はアマゾンの存在理由に関わる分野なのかもしれない。


 このアマゾンの「すごいルール」から、現状の出版界の3つの論点(再販制の維持・取次書店システムの維持・版元の財務内容の改善)を考えてみたい。アマゾンビジネスはこの3つの課題いずれにも大きなインパクトを与える。


 周知のことではあるが、今年1月31日、アマゾンは直取引出版社を2942社と公表し、返品なしの買切り制、買切り後の値下げ販売の構想を記者会見で披瀝した。


 アマゾンが秘守主義を返上して2942社の内訳を知りたいものだが、この直取引の数にも驚いたが、完全買切りにも驚いた。例えば、初版3000部の内2000部を買い切ったアマゾンは、彼らのもう一方のビジネスルールである「ベストコストパフォーマンス」の期間内で完売できるだろうか?


 売れ残りが発生した状況では、値引き販売か、返品買い戻し要請か、取引停止か、買上げ資金の行き詰まりによるシステム崩壊のいずれかであろう。


 「お客様はそれを喜んでくれるか?」のお客様の中に、アマゾンの都合で出版社(取引業者)が含まれたり、外されたりしないだろうか。データ判断で正味の切り下げ、翌月全額支払い条件を変更、取引をしないと通告されないだろうか。


 アマゾンは、お客様に喜んでもらうために、ポイント制を拡充するという。ポイントを増額するとたしかにお客様はアマゾンから購入する便宜性が増す。アマゾンが他の競争相手に、ダメージを与えるには効果的だろう。


 ただし、実際の要求は、ポイント増額の原資を取引先が提供せよというものである。


 アマゾンとの直取引が拡大したのはいいが、1年後にやってくるだろう「契約内容の見直し」に戦々恐々するという世界が出現しはしないか。業界に大きなブラックボックスが出現し、取次書店システム、再販価格維持制度、出版の多様性が飲み込まれるのは御免こうむりたい。


 しかし、北海道からヨコ歩きのカニが翌日届く時代に、書籍が10日、2週間では、米相場の情報合戦で飛脚と電話が競争しているようなものだ。


 では、わが社の当面の検討課題はというと、

 ①企画を厳選、高い編集能力・技術で良い本・売れる本を作る。

 ②質が高い分、価格に転嫁する。

 ③最新の物流・情報システムを研究・導入する。

 ④営業は、書店・取次・著作者・読者の書籍普及の力を最大限に引き出す企画力を獲得する。

 ⑤各種の研修会/情報交換の機会に参加する。

 いずれにしてもわが社と業界の持続のためにできることをするのが肝要だ。

                            (2019年4月1日記)

出版協副会長 上野良治(合同出版)

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