書店さん、オンラインで商談してみませんか?(ほんのひとこと)

更新日:2020年6月1日

 新型コロナの影響で、多くの出版社は書店への訪問営業を自粛しています。5月末現在、緊急事態宣言が解除されたものの、当社はいまだ自粛中です。厳しい状況の中で、本の流通に携わっているみなさん、書店で働くみなさんも、日々、難しい判断を続けながら営業されていることと思います。本を人々へ届けてくださっているみなさんへ、心から感謝と敬意を表します。

 さて、出版社の営業担当は、書店訪問が難しい中でも、新刊や既刊の案内を届けたい一心で、電話やメール、FAX、DMといった手段で書店へ連絡を続けています。ですが書店の現場は今まで以上に多忙であり、こうした出版社からの連絡に対応することも難しい。本は売れているのに、出版社とのコミュニケーションが薄くなったことで、店頭の品揃えも薄くなってきた、という声も聞きます。こうした状況はいつまで続くのか。 1年か、2年か。 コロナ禍がいつか終焉を迎えたとしても、今私たちが経験している「ニューノーマル」と呼ばれる生活様態は、後戻りのできない影響を私たちに与えるでしょう。

 いわば私たちは、コロナ禍をきっかけに、新しい時代を作り出そうとしているわけですが、これまでのような手段だけを用い続けていてよいのか。 今後10年、20年先を考えた時に、書店・出版社が、安全で、効率が良く、持続可能なコミュニケーションを行う手段はないだろうか。

 そう考えていた時に、ある出版社の方がSNS上で「Web商談会ってどうだろう?」と、つぶやいているのを目にし、そういえば、と思い出したことがありました。毎年イタリア・ボローニャで行われている児童書のブックフェアのことです。世界中から多くの出版社が集まって版権売買の商談を行う場ですが、今年は当然、中止となりました。しかし、商魂たくましい欧米の出版社から、「Skypeで商談をしませんか?」というアポイントのメールが来たのです。アポイントは「Calendly」というツールを利用していました。相手の空いている時間をカレンダーから選んで、予約すればアポ完了。お互いの候補日をメールなどで何度もやりとりする必要なくアポが取れる便利なツールです。

 出版社同士がSkypeやZoomを使ってオンライン商談ができるのなら、出版社と書店でもできるはずです。また、オンライン商談会は単にリアルの商談会の代替手段ではなく、オンラインならではの良さもあります。コミュニケーションの密度はリアルにはかないませんが、例えば「北海道の書店員さんが沖縄の出版社にも気軽に会える」という、距離の制約を取り払える魅力があります。リアルな商談会では、会場を借りるハコ代や、出版社も書店も出張する時間・費用がかかり、丸一日、拘束されます。そのため、書店さんも店長クラスの方が商談会にいらっしゃることが多い。しかしオンラインではそうしたコストがかからないため、例えば児童書担当の書店員さんが、数時間だけ児童書の出版社と商談するなど、気軽に参加できます。

 この気軽さは出版社側も同様で、例えば総合出版社の場合、様々な分野の出版物を紹介したい。リアル商談会では空間的な制約があるため細かい分野別にブースを出展するということは難しいですが、オンラインであれば、文芸・芸術・児童・コミックといった、細かい分野別にブースを出展することもできます。

 空間的な制約だけでなく、時間的な制約もありません。なにしろハコ代がかかりませんから、1日だけの開催と限定せず、3日間でも5日間でも、出版社は出展日を設けたっていいのです。1日だけの開催だと書店さんも都合を合わせにくいですし、合わせられたとしても人気のある大手の出版社にアポが集中してしまい、中小へのアポは後回しになることが予想されます。しかし複数の候補日があれば、中小へのアポも入る余地がありそうです。仮にアポの数が少なかったとしても、リアル商談会のように待ちぼうけになることもありません。なにしろ在宅勤務しているくらいですから、空いた時間は仕事をしていればいいのです。

 そして何より大切なことは、新規の出会いの場を持てる、ということだと思っています。今現在は、過去に築いた人脈、つながりの中で、なんとかコミュニケーションをとっていますが、商売は、新規の出会いがなければジリ貧です。細い蛇口でもいいので、新たな出会いの場を持ちたい。

 実はこのアイデア、実現に向けてすでに動き出しています。現在30社ほどの出版社が参加を表明し、出版協の理事社を含めた有志の運営委員会で、議論を始めています。例えば流通に関しては、取次流通はもちろん、子どもの文化普及協会さん、トランスビューさん、あるいは直取引など多様な流通形態を持つ出版社や書店が参加できるようにしたい。また商談会に参加できない書店からも、注文を受けられるような仕組みを、商談会の特設サイトに持たせられないか、というアイデアも出ています。近いうちに、詳細を出版協のウェブサイト上でも告知致します。書店のみなさん、その際はぜひともご参加ください。



出版協理事 三芳寛要(パイ インターナショナル

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