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ウイルスとヒトまたはテナーとヴィークル――様々なる「新しい生活様式」(ほんのひとこと)

 マスクを常時着用し、帰宅後はすぐに手洗いとうがい、できればシャワーを浴びるか入浴をする。室外で接したものを室内へはできるかぎり持込まない。健康維持のため、毎日からだを動かす。逍遥派よろしく石神井川沿いを歩き、室内ではヨーガ(呼吸法と瞑想)を実践。すでに半年以上、続けている。つまり「哲学は学説ではなく活動」(ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』)なのである。


 冬がそこまできているのが信じられないほどの暖気にみまわれた11月19日の東京。報道では「第三波」襲来のようだ。東京都の感染者が534人、全国では2386人の感染者数を確認(11月25日時点)。東京都はモニタリング会議で新型コロナウイルス感染状況を四段階で最も深刻なレベルにまで引き上げた。全国での感染拡大の報を受けた菅総理は「最大限の警戒状況にある」とし、専門家会議の議論を踏まえ関係閣僚に効果的な対策を講じるよう指示。小池知事は「キーワードは5つの小(こ)」と提言。曰く「小人数」「小一時間」「小声」「小皿」「小まめ」な換気や消毒だ、と。


 「コトバは、何を、どう言うべきかを強制するだけでなくて、何をどう見るべきかをも強制する、と。コトバが分類様式であるならば、個々の言語はそれぞれ特殊な(存在)分類のシステムでなくてはならない。それは、その言語を語り、その言語でものを考える人々に、ある一定の世界像を強制する。一つの言語は、一つの自然的解釈学の地平を提供する。我々はそれによって『世界』を見、それによって『現実』を経験する。経験するように強制されるのだ」(井筒俊彦『意味の深みへ』)という言もあれば、「言語は宇宙からやってきたウイルスである」(W・バロウズ)という言もある。コインの表裏のような関係にある「ウイルス」と「コトバ」の意味するところはほんとうに多義的だ。


 文字通り「第三波」襲来となったいま、「GoToキャンペーン」の政策もあり、再度の「緊急事態宣言」発令をめぐって加藤官房長官は、コロナ対策分科会で感染状況と医療現場の逼迫状況を総合的に判断して決めるという。感染防止と経済活動の両立を図る方針である。とはいえ「明証的に真であると認めることなしには、いかなる事をも真であるとして受けとらぬこと」(デカルト『方法序説』)が肝要なのだが、アクセルとブレーキを同時に踏むとどちらが優勢になるのだろうか。楯と矛の話もある。


 4月7日発令の「緊急事態宣言」以降、企業における勤務体制は劇変。時差出退勤、リモートワーク、テレワークが常態化。店舗や劇場では縮小・時短営業を余儀なくされた。移動しない、群れない、接触しないが基本的なスタイル。要するに「3密」状態の積極的な回避。しかしこの「体制」を徹底することによって、ひとはこれまでいかに無意識的にコミュニケーションを図ってきたのか、またその際に生じた「ノイズ」がいかに大事であったかが改めて痛感させられることになった。「理性とは、おのれが全存在をつらぬいている、という意識の確信」(ヘーゲル『精神現象学』)なのだ。


 どこもかしこも新型コロナ禍で強制的に「働き方」が様変わりした。衣・食・住にかかわるすべてが変化。外出自粛という問題への対応としてテレワークが推奨され、任意の場所、どこからでも仕事ができる体制となった(何事にも例外はある)。これまで企業では社員・スタッフが会議を行い、非公式な場(飲み会等)での議論も含め、コンセンサス形成に注力してきた。部や課といったチームではそれぞれ「役割」があり、スタッフ同士を相互監視させプレッシャーを与え、「手抜き」ができない状況をつくり、目標達成を実現させることがマネジメントの要諦であった。


 しかし、コロナ禍となってこれらの「施策」は完全に否定された。企業は方針転換を図り、スタッフのジョブ型への移行、会社と個人の契約内容、社員・スタッフの意欲や中身も変わった。90年代の「IT革命」では世界の在り様が根源的に変わったが、2020年はそれをはるかに凌ぐ「変化」となった。PCやスマホをつかって様々なアプリを活用すれば、個人レベルでも「世界」を相手にビジネスは可能となった。技術革新が世の中を変えた。いわゆる「グローバリズム」、まさにデジタル革命である。


 現況ではいかなる知識をもってしても「コロナ禍」収束が予測できそうにないなか、いま一度「会社」とは何かを考えてみたい。語源では「ひとが共に食事をすること」のようだ。会社の「機能」を可能なかぎり細分化し、社員・スタッフが有する技能を洗い出し、それら各要素を再編集できさえすれば新たな「仕事」を創出できるはずだ。当然、「転職」「独立」「起業」を考えるひともでてくる。企業も個人も常に既に変革しながら生残りを追求する時代なのだ――「幻影の人は去る 永劫の旅人は帰らず」(西脇順三郎「旅人かへらず」)。



出版協理事 河野和憲(彩流社

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