「著作権法改正案に対する出版協の見解」をまとめるにあたって(ほんのひとこと)


 現在、国会に提出されている著作権法改正案(以下、改正案)について出版協としての見解をまとめるために、この数ヵ月を要した。一から改正案提出にいたった経緯やその内容を文化審議会著作権分科会の審議録や報告書などから読み取るため時間を費やしたからである。論点整理をした後、理事会内の出版の自由・出版者権利委員会で議論し案文をまとめ、それに基づいて出版協理事会で議論した。ようやく4月28日に発表に漕ぎつけた(見解は出版協ホームページを参照)。


 以下では、改正案そのものについてではなく、見解案を検討していたとき思ったことを2、3述べたい。



 第1に、著作権法上、出版社は当事者性を持っていないということである。周知のとおり、現在、出版社には編集権や版面権といった権利が著作権法上認められていないため、出版社は著作権者と契約することによってはじめて権利(出版権)を得ることになっている。出版社は、著作権法上直接の権利者ではないが、著作権法改正で影響を被る可能性は高く、大きな利害関係者といえる。審議会でもその点は認めており、かなり配慮していると思われる。とはいえ、当事者としての立場を有していないことは、この問題への出版社の関与に限界があることを認識しておくべきである。それは改正案の補償金制度作りへの関与の点に現れる。


 2点目は、図書館と出版社の関係をどう見るかである。


 これまで、両者は、図書館での図書の貸出など利用をめぐって幾度となく対立してきた。本が売れなくなったのは図書館が新刊を含めて貸出しているからだという意見はその一つである。


 かつて「図書館=無料貸本屋論」が展開されたことは記憶にあたらしい(詳しくは、福嶋聡〔ジュンク堂書店難波店店長〕「図書館は出版業界の敵なのか」Web論座2017年11月14日・15日・16日の3回連載※有料記事)。改正に対する昨年12月のパブリックコメントで現れている、改正案が「民業を圧迫」するという出版業界の強い警戒感はそれに通じるものがある。この点について、理事の一人である晴山生菜氏は、図書館の利用者へのメール送信は出版の売り上げに影響は出ないとして、むしろあとで述べるが利用者としての利便性を歓迎する(同「著作権法改正は民業を圧迫するか?」FAX新刊選101号)。


 「図書館の貸出数が増えたから、本が売れなくなったのか?」という問いに答えを出すことは、「社会的な事象については、自然科学における比較実験のような手段は取れない」という理由で、容易でないと前述の福嶋氏は言っている。それと同様、「改正によるメール送信で、本が売れなくなるか?」の問いに答えを見出すのも困難である。私は、今回の改正が出版社にどのような影響を与えるか、与えるとしてそれが出版社の経営を揺るがすほどのものか依然として判断しかねているが、具体的な影響が出たあとでは取り返しがつかなくなるという漠然とした不安を一方でもっている。


 この不安はかなりの程度、出版物の分野や出版社としての経験に左右されると思う。しかし、会員社の中で一社でも影響を被るという社があれば、出版協としては見過ごすことはできないと考える。


 また、もう一点は、図書館利用者の視点をどう見るかである。


 前述のように経済的影響を被るという意味で、出版社は図書館(サービス)と対立する当事者になっているが、一方で、編集者は出版企画作りや校正などで図書館の恩恵を受けている側面を有している。「利用者」の視点から前号のFAX新刊選で晴山氏が賛成意見を展開している。永江朗氏も明確にこの点を高く評価する(毎日新聞2021年4月21日付朝刊※有料記事)。


 利用者サービスの向上を突き詰めていくと、国会図書館が出版された図書資料をデジタルデータ化し一元的に集積・管理し、各図書館や利用者に貸し出すこと(配信)に行き着く。こうすれば、新刊1冊を買って、それをデジタル化すればよいのである。現在のIT技術はそれを可能にしている。今回の改正案はそうしたことが近い将来現実化することを予感させる。そうなると、本のコンテンツだけを必要とする読者は、それを利用すればよく、本自体は売れなくなり出版社は大きな影響を受けるだろう。もっとも出版社がなくなると、図書館に本が入らなくなり、図書館はその存立基盤を失うだろう。結局、問題は、図書館の利便性の向上と出版社の継続性維持のバランスをどうとるかに行き着く。



 見解をまとめるにあたって、このようにたくさんの疑問が湧いてきた。出版協の見解の中にはこれらすべてを盛り込むことができなかった。整理すると、そもそも図書館の役割(目的)とはなにか、そして図書館と出版社との関係、利用者と出版社との関係、権利者と出版社との関係、これらをどう見るか。それを考えるにあたって常に図書館と出版社との共存関係をどう築いていけるかを念頭におかないと、実りある議論にはならないと思う。


 こうした視点から今後もこの問題を検討していきたい。出版協の会員やひろく出版業に携わるみなさんのご意見をいただければ幸いである。



出版協理事 成澤壽信(現代人文社



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