少し古い話で恐縮だが、1970年代、全国の被差別部落の地名・所在地・戸数・主な職業等を記した「部落地名総鑑」が販売されていることが発覚した。興信所・探偵社関係者が人事や結婚などに関する調査で「部落地名総鑑」を作成、販売をすれば利益をあげることができると考えたとのことだった。企業などに1冊5,000円から5万円で販売をしていた。企業では採用にあたりこのリストをもとに被差別部落出身者を排除していた。また、個人で購入した者は結婚のときこのリストを使用するつもりだったということである。当時、大問題となり国会でも取り上げられ、購入が判明したものは回収をされ廃棄処分となった。
今世紀になっても残念ながら身元調査はおこなわれている。現在、戸籍や住民票は本人やその家族しか閲覧・取得できないようになっている。例外が行政書士、司法書士や弁護士などいわゆる八士業で、職業上必要な場合に取得ができる。この制度を悪用して不正に戸籍や住民票を取得し依頼者(一般市民)に販売をしていたのである。3万件以上の情報が売買をされていた。(2011年に関係者が逮捕されて総勢28人が起訴、有罪判決。不正な個人情報の取得はハローワークが所有する雇用保険の加入歴や個人の携帯番号など、多岐にわたる。)戸籍や住民票の取得について、裁判で被告人は「お客さんの依頼は85%から90%が結婚相手の身元調査と浮気の調査である」、「依頼の半分は結婚の相手の身元調査だ」、「明治時代から続いてきているような調査を求める人が多い」とその取得目的について証言をしている。
さて表題の動画の削除についてである。インターネット上では差別や偏見をあおるような情報、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムが氾濫している。その影響力の大きさ故に差別や偏見にさらされることによる不安・被害・人権侵害が大問題となっているのが実情である。
昨年には在日韓国・朝鮮人集落への放火事件がおき、この事件にたいして有罪判決が出ているが、その動機はネット上の差別や偏見をあおる偽情報によるものだったと裁判で明らかになっている。特定の集団や民族、個人に対する差別や偏見、誹謗や中傷にたいしてその削除や訂正、被害者救済、加害者への対処などについて解決すべき問題が山積している。
部落問題についての誤った情報や差別や偏見、身元調べにつながる情報も氾濫している。このとんでもない状況において、モリタニングや削除要請など粘り強くおこなわれている。
今回の身元調査にもつながる動画については、自治体や法務局からも撮影者にたいして削除要請がおこなわれていたが聞き入れない状態であった。同一人物が各地の被差別部落に入り、無断で撮影をして所在地をふくめた地元情報を動画投稿サイト「ユーチューブ」に5年間くらい投稿し続けていた。
しかし昨年11月30日、被差別部落を撮影した動画200本以上を、運営側のグーグルが削除したのである。「ヘイトスピーチに関するポリシー(指針)に違反をした」とのことだ。ユーチューブからの削除を求めるオンライン署名約28,000筆が30日までに集まっていた。投稿を削除した場合、投稿者からの訴訟リスクがあるようで、削除のハードルは高いようである。
投稿者当人は他のサイトでの配信を模索しているようであり、模倣犯も出てきている。
出版協理事 髙野政司(解放出版社)
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