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取次今昔モノがたり(ほんのひとこと)

  • 執筆者の写真: shuppankyo
    shuppankyo
  • 10月15日
  • 読了時間: 3分

 先日、1966年の日活映画『青春ア・ゴーゴー』を観る機会があった。

 主人公の浪人生がエレキバンドに憧れ仲間を集めてバンドを結成し、テレビのコンテストに出場し10週を勝ち抜いて優勝。気持ちはプロになることに傾くが、その後メンバーは各々の道を歩むことになるという物語。

 山内賢、浜田光夫、和田浩治、ジュディ・オングに太田雅子(後の梶芽衣子)、そしてGS(グループサウンズ)の雄、田辺昭知とザ・スパイダースといった当時の青春スターたちが出演している。

 バンドを結成したはいいが、家では広さと音の問題で不都合が生じ、週末だけでも使える練習場所を探すことになる。

 映画の中では地味な扱いで、定時制高校(?)に通い、寮と思われるところに住むベースとサイドギター役の2人が勤める会社の倉庫を、守衛さんをタバコ1カートンで抱きこんで、週末の練習で使うことになる。

 この倉庫の様子をよく見るとそこにあるのは、結束された本の山々と(まだCI〈コーポレートアイデンティティ〉なんて言葉、誰も知らない時代の)「東京出版販売」の文字が印刷されたダンボール。

 映画やドラマで書店がロケ地になることはよくあるが、取次店とはめずらしい(と思うのは私だけか……)。

 後にこの2人は卒業とともに本採用となるので、バンドは続けられない旨を他のメンバーに告げる。

 オリンピック後の反動があったとはいえ、まだまだ経済成長を疑う様子がなかった時代。物流を担う現場では、中学卒業者を見習いのようにして受け入れ、高校卒業とともに正式採用という雇用形態も普通にあったのだと推察される。


* * *


 20年ほど前だろうか、代表交代の挨拶に伺った取次店で、応対していただいた役員の方が、新人の頃は、本郷界隈まで自転車で集品に行っていたとの思い出話をしてくれたことがあった。

 かつては業量も多くはなく、人力でなんとかできた(していた)時代だったのだろうし、実際に当時は、新刊見本は自転車で取次店を回っている版元も少なくなかった。

 かつて、取次店の新入社員は、集品のトラックに同乗し、判取りをやっていた時期があったが、今でも行われているのだろうか。

 業界に入って実際の(多くの貧乏)版元の出荷の実態を知るいい機会にはなっていたと思うが、やっていることがあまりにも前時代過ぎて、業界に失望する機会にもなっただろう。

 「取次の中で出世する奴ってのは、物流をうまく仕切った奴なんだよ」、「取次って商売はどうしても量を求めるんだ」、「最近の取次ってのは見本持ってってもいいともダメともいわねえ。お役所みてえだなぁ」

 いずれも私が諸先輩から聞いて記憶している言葉だ。

 過去を懐かしんでいるだけだと言われれば、その通りかもしれない。もうそんな時代ではないのだよと。だが、その風景の中には、一冊一冊としての本の現物が、塊としての本が映りこんでいるのではないだろうか。


* * *


 鳴り物入りで運用を開始したプラットフォームを自称するシステムが早々に停止せざるを得ずその時点で改修に数ヶ月を見込む事態や、引き受け先が明確に定まらないうちにその事業からの迅速な撤退表明や、過去の実績を精査すれば売れるであろう新刊の事前の客注を発注しても配本では希望通りの冊数を送らないことなど、一体何の何処を見ていたのだろうと思うことしきりである。

 ある取次の人から「神田村と一緒にしないで」とかつて聞いたことがある。神田村の取次のように小回りがきかないのは「量を求める」以上致し方ない部分はあるだろうが、一読者が必要としているのは、その一冊のはずで、60年経とうがそれは変わらないはずだ。

 見るべきは、ディスプレイでもデータでも脳内システムでもなく物そのもの動きではないだろうか。


●出版協理事 廣嶋武人(ぺりかん社


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