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入札と再販制(ほんのひとこと)

  • 執筆者の写真: shuppankyo
    shuppankyo
  • 10月15日
  • 読了時間: 4分

 4月10日、書協・雑協・取協・日書連の4団体で構成する出版再販研究委員会が、再販売価格維持契約書のひな型の改訂を決めたことが業界紙(新文化)に報じられた。これまで「この契約の規定は、次に掲げる場合には適用しない(第六条)」として挙げていた「官公庁等の入札に応じて納入する場合(第2項)」を削除するという。つまり、入札の場合も定価販売しなければ再販契約違反になるということだ。


 正直「そんなこと、独禁法上できるの?」と思った。


 出版物の「再販制」は独占禁止法によって規定されている。民間同士が「再販売価格維持契約書」を結んで発行者のつけた価格を維持して再販売=定価販売をすることが自由競争の例外として認められている形だ。ただし、独禁法では国家公務員法や地方公務員法、消費生活協同組合法を含む各種協同組合・共済組合法に基づいて設立された団体には、再販売価格維持を求めることができないとされている。これにより、生協では割引販売が行われている。同様に、図書館を含む官公庁の入札についても、割引価格で応じることを縛る行為は独禁法上認められていない……と思い込んでいたからだ。


 だとすれば、公取が黙っていないはずだし……と思っているうちに、一般紙にも報じる記事が載った。独禁法を改めて見ても、官公庁の入札について明確な記述はない。改訂版は、5月1日に書協ホームページに掲載された。


 書協事務局に確認したところ、やはり今回の再販契約書の改訂は、出版再販研究委員会が公取に報告済みで、公取から独禁法に関しての指摘はなかったのこと。


 つまり、「官公庁等の入札に応じて納入する場合」を再販契約書の適用除外にしたのは独禁法の規定からではなく、入札の実態に合わせて値引きを行うことを契約違反にしないための、書店側からの要求によるものだったと改めて知った。ずいぶん長い間思い込み違いをしていたものだと、不勉強を恥じる。



 その項目を削除する今回の改訂も、書店側からの提案だという。現在の厳しい経営環境の中、官庁や図書館から割引を求められても、書店としては再販契約上値引きはできない、定価で購入してほしいと要求する根拠とするためだと報じられている。


 かといって、官公庁や図書館が入札を行うことは止めようがない。旧版の再販契約のままの書店等が値引きに応じれば、それまでである。


 その場合、値引きに応じなかった書店や書店の団体、出版社の団体が、値引きを行った書店に文句を言うことはできない。出版物の「再販制」は、法的に守るべき制度ではなく、出版社-(取次店)-書店の間の個別の民民契約によって成立しているものだからだ。値引きを行った書店に異議申し立てできるのは、値引きされた本の出版社が、その値引きを再販契約違反と認定したときのみなのだ。しかも、その書店が入札にあたって値引きをすること自体には文句は言えず、「入札にあたっても値引きは再販契約違反であるので、自社の本については定価で売ることを求める」としか言えない。―これらは、Amazonのポイントサービス(値引き)に対抗するための交渉の際に確認した公正取引委員会の見解だ。


 改訂された再販契約を守って定価で応じようとした書店が落札できずに終わっただけ、ということにしないためには、個々の出版社が声を挙げる必要がある。やっかいなのは、Amazonのポイントの場合は、自社の本が対象とされることがわかったので、Amazonに文句が言えたが、入札の場合はどの書店がどのように値引きしたか、自社の本が含まれているかわかりにくいことだ。


 とりあえず、事前に宣言しておこう。


「書店様 官公庁・図書館の入札にあたって値引きを行うことは、小社では(ごく少額のお楽しみ程度の場合を除き)再販契約違反と認定します。小社の出版物については、入札にあたっても定価での販売を求めます。」


 小社のような小出版社1社が宣言するだけではたいした抑止力にはならないだろう。多くの出版社が態度を明確にしておくことが、定価販売しようとする書店を支えることになるはずだ。共に声を挙げる仲間を募っていこうと考えている。



 図書館には定価での購入を求めるとともに、そのために購入冊数を減らすようなことがないようにしてほしい。そもそも文化関係の予算が少なすぎるのだ。行政には図書購入予算の増額を求め続けたい。


 加えて、図書館には地域のコミュニティの文化拠点を守る意味からも、地元の書店からの図書購入を求めたい。



●出版協会長 水野 久(晩成書房


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