出版流通の危機に際し、出版社が考えること-正味改定や価格改定について(ほんのひとこと)
- 1 日前
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出版流通の危機について頻繁に耳にするようになった。出版物の流通額も書店数も減少が続く中、2026年3月決算の経常でトーハンの取次事業は40億円超の赤字※1、日販の取次事業も36億円の赤字※2だという。日本出版取次協会の資料では、いわゆるトラック新法への対応により、出版流通側に270億円規模の追加負担が生じる可能性も示されている※3。こうした背景のもと、トーハンの近藤会長、日販の富樫社長の両氏から、出版社との取引条件見直しに踏み込む発言が出ている※4。SNS上ではさらに紙代・インク代・印刷製本代などの高騰も話題に上がり、毎日のようにこうした話題を目にしている当社の若手社員からは不安の声が上がっている。出版社を経営する身としては、私見であっても何か道筋を示す必要を感じた。
私は日本の出版業界の根本的な問題は、書店の粗利益率が20%台という利益の薄さにあると感じてきた。当社は海外にも本を輸出しているが、欧米の書店の粗利益率は40~50%程度が多い。同じ価格の本を売ったときに、手元に残る粗利益が日本の倍になる。つまり日本で欧米と同じ粗利益を手元に残すには、倍の部数を売る必要がある計算だ。一般的に文具・雑貨の場合40~50%、カフェは65~75%の粗利益が残るとされることを考えると、若い人が何か商売を始めようとしたときに、本だけでやっていくには相当の覚悟がいる。
この点に関してトーハンの近藤会長からは、本の本体価格に対する各社の取り分を、現行は「出版社:取次:書店=70%:8%:22%」とされているところを「60%:10%:30%」または「55%:12.5%:32.5%」などとする「イメージ」が例として示された※3。海外や他業種との比較からすれば、書店の粗利率改善の方向は正しいと思う。しかし出版社だけが取り分が少なくなるこの変化は、業界が元気なときならともかく、弱っているところに急激に引き起こすと出版社が立ちゆかなくなる。特に中小出版社は大手に比較して体力がない上、急激な原価・販管費高騰のあおりを受けている。拙速な移行は避けるべきだ。
なお、出版協理事会内では、上記の「イメージ」は、あくまで取次の試算による発信であり、これをあたかも業界内の共通認識であるかのように扱い、出版流通において優越的な地位にある取次主導で、条件変更ありきの議論を進めるべきではないという意見も強い。取次各社においては一方的な条件変更を出版社に迫るのではなく、各社とよく話し合い双方の納得のいく結論が得られるよう努めていただきたい。
当社ではすでに実質的な取り分、つまり正味が、コロナ禍発生の2020年以前に比べ、本体価格の3%程度下がっている。コロナ禍以降、書店への本部施策に力を入れるようになり、書店や取次との増売施策の報奨金、取次からの要請による物流協力金や、ブックセラーズ&カンパニー(BS&Co.)との取引開始による手数料といった販管費が増えたことが原因だ。いずれも売上向上を狙うと同時に、書店や取次への利益還元を意識した。なおBS&Co.については、BS&Co.に加盟している書店における当社のシェアを高め返品率を下げつつ、書店の利益率を上げるという理念に共感し参画した。
これらの施策の結果、売上は伸びたが実質的な正味は下がった。それまで書籍の価格は、印刷費や印税などの「原価」から割り出していたが、それでは「販管費」の増加に対応できない。従って当社では今年から、見かけ上の原価率(原価÷売上)ではなく実質的な原価率(原価÷(売上―報奨金・手数料))を見て価格を決定する方針にした。今後も取次からの条件交渉で実質正味が下がり得る(今、それに応える余裕は当社にはないが)。その場合、価格に転嫁していく他ない。
高騰する費用を価格へ転嫁する際に、新刊の価格だけに転嫁するのでは不十分だ。書籍出版社は既刊のロングセラー本の売上に支えられている。当社の場合、売上の7割近くを既刊の重版書籍が占めているため、既刊の価格も改定する必要がある。この際、留意すべき点がいくつかある。まず、読者に便乗値上げなどとみなされることのないよう、なぜ価格改定が必要なのかを説明できること。また重版時に価格改定する際には、ISBNは変更せず価格のみの変更となるため、一時的に店頭で同じISBNでも旧価格本と新価格本が並び、読者からは一物二価のように見える状態が生じ得る。これにどう対処すべきか。あるいは新装改訂版などISBNの変更を伴うものにはどのような注意が必要か。こうした価格改定時の留意点など、出版協では人に聞きづらい問題に関して情報共有を行っているので、興味のある方はぜひ入会を検討されたい。
最後に、価格改定に関して読者に理解を求める努力も必要だが、読者がその価格に納得し「持っていたい」と思ってもらえる本づくりが今まで以上に求められている。これだけよいものを作っているのだから、自信をもってこの価格で届けているのだと、胸を張って言えるものづくりを目指したい。
【参考文献】
※1 新文化オンライン 2026年5月30日「トーハン決算、「取次事業」40億円超の赤字に」
※2 新文化オンライン2026年5月29日「日販GHD、減収赤字決算に。日販は約20億円の営業損失」
※3 日本出版取次協会HP「2026年1月29日開催 文化通信社特別セミナー「トラック新法成立後の世界」第一部基調講演資料掲載」
※4 新文化 2026年5月14日号 1面「「構造改革」の在り方と課題 「全国トーハン会代表者総会」議論詳報」、文化通信 2026年6月23日号 1面「出版社への取引条件変更要請開始へ」
出版協副会長 三芳寛要(パイ インターナショナル)

