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国立国会図書館デジタル化資料の「送信候補リスト」公表の遅れ(ほんのひとこと)

 7月末日、国立国会図書館のサイトを朝から何度も見ていた。とくに、同サイト内の「関係者の方へ」というところを注目していた。文献検索以外ではめったにしないことである。何を見ようとしていたかというと、国立国会図書館が発表する同館デジタル化資料の「送信候補リスト」である。例年7月末には発表されることになっていたものである。


 このリストは、国立国会図書館が「国立国会図書館デジタルコレクション」として提供する資料(書籍など)のうち、図書館向けデジタル化資料送信サービス及び個人向けデジタル化資料送信サービスで利用できる、次年度の資料の候補一覧である。これまで国立国会図書館内「限定」で公開していたデジタル化資料のうち、入手困難と判断された資料は館外からでも利用できる「送信対象資料」になる。出版社など著作権者が「事前除外」の手続をしないと、そのまま公表リストになる。


 今年の「送信候補リスト」公開に特に注目していた理由がもう一つある。2022年度補正予算によって、国立国会図書館では現在1988年~1995年刊行分資料のデジタル化作業が進んでおり、その中からの入手困難資料(書籍)が今夏リストアップされることになるからである。


 というのは、出版協の会員社の多くが1970年代創業で、会員社の書籍が「送信候補リスト」に多くリストアップされることが予想されるからである。


現在、国立国会図書館は、各出版社の書籍がこの「送信候補リスト」に掲載されたことを、各出版社には個別に通知していない。出版協では一昨年から、会員社が自社の書籍がリストアップされたことを見逃さないよう注意を喚起するために、会員社ごとに仕分けしたリストを作り、各社に連絡している。



 話は元にもどるが、「送信候補リスト」がいっこうにホームページに出てこない。出版協の事務局にも問い合わせてみたが、やはり発表されていないという。8月1日になっても出ていない。


 不思議に思っていたところ、7月27日に開催された「資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会」での国立国会図書館による報告に事情が記されていた。その報告によると、2022年度は新たに40万点という大量の資料がデジタル化されたことに加え、今年は「送信候補リスト」にのせるかどうかの判断、つまり「入手困難」かどうかの判断を慎重に調査するために時間がかかっているというのである。そして、発表が10月ころになるというのである。


 出版協は、昨年秋から、この「入手困難」の判断基準とそれに基づく出版社側からの「事前除外」の申し入れ手続について、出版社側の実情を考慮しない不合理なものであるとたびたび国立国会図書館に申し入れをおこなっていた。


 また、一般社団法人日本出版著作権協会(JPCA)は、基になるデジタル化事業に関して、5月29日に、国立国会図書館と協議に参加した出版社側団体・委員に対して見解を明らかにするよう申し入れる文書(※参考)を、国立国会図書館と文化庁著作権課に送付した。


 デジタル化資料の範囲については、「資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会」における合意事項に基づいておこなわれている。協議会に参加しているのは、日本音楽著作権協会など著作権団体のほか、出版関係団体では、日本書籍出版協会と日本雑誌協会の2つである。出版協は2021年11月からオブザーバー参加が認められている。


 JPCAの申入書の内容は、つぎの各点である。

①国立国会図書館はデジタル化対象書籍を「絶版等の理由で入手が困難なもの」としているが、「入手が困難なもの」という規定では、多くの専門出版社の既刊書籍が、デジタル化対象書籍とされてしまう。

②国立国会図書館が策定している(公開資料からの)除外規定は、同館がいかようにも判断できる規定である。

③デジタル化事業に関して出版社に十分周知されていない。

④出版社の申し出による「オプトアウト方式」の除外規定は、極めて非民主的で不公平な手続である。そして、これ以上のデジタル化事業の推進は、出版社に対するマイナスが大きいとして、1988(昭和63)年以降のデジタル化事業の保留を強く提案している。


 最後のデジタル化事業の保留提案を除いて、出版協の先の申し入れとほぼ同じ内容である。出版協では、上記①については、国立国会図書館側での「入手困難資料」の調査が厳密でなく、出版社にとって耐え難い不利益になる場合があることを示して、善処を求めている。また、これと関連して④の「オプトアウト方式」についても、「送信候補リスト」に掲載されたことを事前に対象出版社に直接個別に提示すべきだと要求している。


 以上の点が今回の国立国会図書館の対応に反映されたのかどうかは不明だが、何らかの影響はあったのではないかと思う。しかし、今回の「入手困難」かどうかの判断を慎重にするという対応は当然のことであり、「入手困難」の判断基準をどうするかという本質的問題を回避しているとしか見えない。


 これまで、すべての人の知の創造に寄与するために、図書館サービスの発展と利用者の利便性を確保する上で、国立国会図書館と出版社は協力関係を積み上げてきた。その健全な関係を損なうことがないよう、急速なデジタル化の進展による影響の拡大に伴いさまざまな問題提起がなされている今、デジタル化資料に関して、早急に改めて十分な議論をすべきと考える。


出版協副会長 成澤壽信(現代人文社



(※参考)国会図書館のデジタル化事業について

-ここで一旦立ち止まるべきである、と考える-


現在、国会図書館のデジタル化事業の推進をもとに、図書館向けデジタル化資料サービスと国会図書館の登録利用者への個人向けデジタル化資料送信サービス(印刷可能)が開始されている。 資料デジタル化基本計画2021-2025によれば、1995年までに国会図書館が受け入れた図書を対象としている。以下は、著作権等管理事業者としてのJPCAとしての意見である。


*事業当事者の国会図書館、そして、協議に参加した出版社側団体・委員に、それぞれの見解を明らかにしてもらいたい。


*当会員出版社の発行物が多数含まれている。今後、この事業がこのまま推進されればますます甚だしい影響を及ぼすことは明らかである。会員社の不利益が明らかな状態を、当会はそのまま座視することはしない。


1 「絶版等の理由で入手が困難なもの」とは何か 国会図書館は、デジタル化の対象書籍について、「絶版等の理由で入手が困難なもの」としている。 それは、著作権保護期間内である著作物のデジタル化利用という「新たな著作権の制限規定」を、著作物の「流通」の問題に矮小化していることに他ならない。 それに加えて、本事業が設計された時点から、出版物の「流通」が様変わりしている点も見逃すことはできない。発行年の古いロングテールの本は、ネット書店を通じて、多くが「流通」している。出版社も在庫があれば、出荷している。従来の「入手が困難なもの」という規定では、多くの専門書版元の既刊書籍が、デジタル化対象書籍とされてしまう。


2 国会図書館が策定している除外規定について 事業主体の当事者(国会図書館)がいかようにも判断できる規定になっている。 無定見な対象書籍の選定とは裏腹に、除外規定だけが厳密である。 資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会の見識を大いに疑う内容である。


3 国会図書館によるデジタル化事業は周知されているか 国会図書館によるデジタル化の対象書籍について、はたして十分に、出版社に周知されているのだろうか。是非とも、資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会に参加した、出版社団体、著作者団体に伺いたい。会員の出版社、著作者は事態を理解しているのだろうか。デジタル化事業の対象書籍にされていることを認識していない出版社が現にたくさん存在している。


4 オプトアウト方式には、無理がある 周知徹底のない中でのオプトアウト方式は、極めて非民主的で不公平な手続きである。グーグルがとった手法だからと言って無批判に真似するのは、危険である。集団訴訟が日常的にあるアメリカと日本は事情が違う。使い方もあべこべである。 現在の事業の認識の段階では、事業を推進するためには、オプトイン方式の方が、より適切である。なぜなら、事業の意義を充分に理解しているのは、当事者として討論に携わってきた人・団体と限られている。出版業界の認識は低い。 出版界のリーダーである、日本書籍出版協会、日本雑誌協会におかれては、至急、オプトイン方式について検討されたい。


5 事業対象候補となる著作物は、データベースにし、アクセスを容易にすることがはじめの一歩である 最低限、事業対象に予定している著作物の書誌データはデータベース化してアクセスしやすいように公開すべきである。 個人のデジタル利用に関する手続きに比べ、オプトアウトする手続きは、煩雑である。またその理由を国会図書館に述べなければならなくなっている。権利者に対して、権利制限に反対する「理由」を国会図書館が要求するのは、図々しい。


6 デジタル化時代の国会図書館の納本制度は存在しない 従来の納本制度は、保管と図書館内での閲覧、貸し出しを前提としたものだった。そのため、著作権が制限されることが正当化された。 デジタル化による図書館の内外を問わず利活用することを前提とした納本制度は現在日本に存在しない。 従来の納本制度の主旨で収集された書籍をデジタル化利用の対象書籍にすることは、目的外の利用であり、そもそも想定されていない利用形態は、無条件には認められない。


7 昭和63年以降のデジタル化事業の保留を 国会図書館のデジタル化事業は、一旦ここでとどめるべきである、と提案する。 現在、昭和62年までに受け入れた図書のデジタル化が終了したとしている。 これ以上の事業の推進は、あまりにも出版社に対するマイナスの影響が大きい。 今後とも事態が変わらないのであれば、納本制度に協力する積極的理由はないと考え、われわれは全国の出版社へ、納本制度の非協力を呼びかけるつもりである。  以上のとおり、一般社団法人日本出版著作権協会は国立国会図書館ならびに文化庁に対し、国会図書館のデジタル化事業について、ここで一旦立ち止まるよう求める。


2023年5月29日

一般社団法人日本出版著作権協会(JPCA)

代表理事 高須次郎


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