※財務省、各党税制調査会および関係各所に提出いたしました。
【概要】
●消費税「外税表示」の恒久化:「総額表示制度」の廃止
2003年の消費税法改正によって、2004年4月より、いわゆる「総額表示制度」が実施された。その後、2013年施行の消費税転嫁対策特別措置法による特例として「外税表記」が許容され、8%、10%への2段階の消費税率改定を経て、現在、多くの出版物が税率改定に柔軟に対応可能な「外税表記」を採用し、書店においても混乱なく受け入れられている。しかし、同特別措置法の適用期限は2021年3月31日までとなっており、「総額表示」の義務化が復活しようとしている。
私たちは以下の理由によって、「外税表示」の恒久化、「総額表示義務化」の廃止を強く要望する。
(1) そもそも商品の価格表示については事業者が、それぞれの業態の実情に応じて適切な方法を選択すべき問題であり、国が一律に強制すること自体に無理がある。
(2) 現状において、出版物をはじめ、多くの小売の現場で「外税表記」を含めた価格表記が混乱なく広く受け入れられており、「総額表示」でなければ支払い額が分からず困るといった消費者からの苦情は書店からは報告されておらず、一般的にも考えにくい。
(3) 特に、再販商品である出版物については、消費税率改定のたびに、定価表示義務者である出版社に新たな諸費用・負担がかかり、しかも書籍が長期にわたって販売される特性を持つ商品であることから、「総額表示」を徹底すればするほど、税率改定の際には多大な負担が繰り返されることになる。
(4) 出版物の市場は1996年をピークに減少を続けており、出版社は2004年の「総額表示義務化」施行当時に比しても厳しい経営環境のなかにある。さらに、このかんの合理化で、スリップは廃止の傾向にあり、2004年当時のスリップでの対応に準ずるとしても、スリップを廃止した出版社では、総額表示用のしおり等を作製し挟み込むという新たな負担を生むことになる。
(5) 「総額表示制度」の復活は、消費税導入時にも生じたロングテールの在庫書籍の絶版化などを再び招きかねず、このことが読者・消費者にとっての最大の文化的不利益となる。また、総額表示のための費用負担は、出版物の定価に反映させざるを得ず、消費者にとっても不利益となる。
(6) とりわけ、現在のコロナ禍の下で、出版はじめ多くの産業が打撃を受けている。書店をはじめ小売の現場がさまざまな感染症対応に追われているなか、総額表記の義務化により各現場にさらなる手間や負担を強いるべきではない。
以上
【全文】
●消費税「外税表示」の恒久化:「総額表示制度」の廃止
■消費税導入後の出版物の定価表示の推移と現状
私たち日本出版者協議会の前身である出版流通対策協議会(以下、流対協)は、1978年の公正取引委員会による再販制度廃止の動きに反対した小出版社が集まり、小出版社が直面している差別的取引の不合理な実態の是正と公正な取引、出版・表現の自由を確保するという理念のもと、1979年に産声をあげ、以来、出版業界のさまざまな課題に対して出版社、とりわけ小出版社の立場から声をあげてきた。2012年に一般社団法人 日本出版者協議会として法人化し、現在73社の中小出版社が加盟している。
2003年の消費税法改定によって、2004年4月より、事業者が消費者に取引価格表示する場合に消費税額を含めた価格を表示することを義務づけるいわゆる「総額表示制度」が実施された。私たちは、旧出版流通対策協議会(流対協)時代から、一貫して「定価 1000円+税」などのいわゆる「外税表記」の合理性を主張し、「総額表示制度」に反対してきた。
1989年の消費税3%導入時、当時は総額表示は法的に義務化されていなかったにもかかわらず、公正取引委員会はカバー・表紙への「総額表示」を強く指導した。この総額表示指導に従うため、出版社は定価表示変更のために既刊本カバーの修正印刷・掛け替え、総額表示シール貼りなどを余儀なくされ多大な負担を負い、日本書籍出版協会(書協)の調査では、書協加盟社1社あたり3623万円、全体で100数十億円の経費がかかったとされる(1989年6月調査、『日本書籍出版協会 50年史』より)。さらに対応しきれない多くの既刊出版物が絶版に追い込まれ、その数は2万タイトルと言われる(1994年5月、共同通信配信)。
1989年7月、流対協会員社35社は公正取引委員会を相手取り、「本体価格が定価」であることを求め、損害賠償請求の訴訟を起こした。裁判は最高裁まで続き、1998年、9年がかりで損害賠償請求は棄却されたが、「公取委が示した「内税表示」は法的拘束力も強制力もなく、こうしたほうがよいと例示しただけのただの公表文である」という判決により、総額表示指導は拘束力を失うこととなった。なお、その裁判のさなかの1996年7月には、流対協との交渉のなかで公正取引委員会も外税表示を容認することとなった。
こうした過程を経て、1997年、消費税が5%に変更された際には、総額表示をめぐる3%導入時のような混乱を避けるため、大半の出版社がカバー表示の外税表示に踏み切り、外税表示が主流を占めるようになった。
2004年4月からの総額表示義務化にあたっては、多くの出版社が、3%導入時とは異なり、新刊・重版書籍についてカバー・表紙の外税表示はそのままとし、スリップの「ボーズ」への総額表示で対応した。しかし書店店頭や出版社に在庫されている既刊書籍については、多くの出版社が対応しきれず、既刊本の多くは外税表示のみのままとなった。流対協では書店や取次店に対し、表示は各出版社の責任で行うものとして、外税表示だからといって差別的な扱いのないよう要望した。義務化以降も表示をめぐる流通上の混乱は起こらず、書店店頭ではカバー・表紙には外税表記のものが大半で、新刊等を中心にスリップ「ボーズ」に総額表示がされているものもある、という状況となったが、販売時の混乱等は報告されていない。
2013年施行の消費税転嫁対策特別措置法による特例として、2013年10月1日より「外税表記」も追認され、その後、8%、10%への2度にわたる消費税の変更を経る中で、「外税表示」の合理性が証明されることとなり、現在、多くの出版物が「外税表記」を採用し、書店の現場でも混乱を生ずることなく今日に至っている。
しかし、同特別措置法の適用期限は2021年3月31日までとなっており、「総額表示」の義務化が復活しようとしている。
■消費税「外税表示」の恒久化、「総額表示制度」の廃止
私たちは以下の理由によって、消費税法の「総額表示制度」の廃止、または同特別措置法の特例適用期限の無期限延長による、「外税表示」の恒久化を強く要望する。
(1) そもそも商品の価格表示については事業者が、それぞれの業態の実情に応じて適切な方法を選択すべき問題であり、国が一律に強制すること自体に無理がある。
(2) 現状において、出版物をはじめ、多くの小売の現場で「外税表記」を含めた価格表記が、混乱なく広く受け入れられており、「総額表示」でなければ支払い額が分からず困るといった消費者からの苦情は書店から報告されておらず、一般的にも考えにくい。
(3) 特に、再販商品である出版物については、消費税率改定のたびに、定価表示義務者である出版社に新たな諸費用・負担がかかること、しかも書籍が長期にわたって販売される特性を持つ商品であることから、「総額表示」を徹底すればするほど、税率改定の際には多大な負担が繰り返されることになる。
(4) 出版物の市場は1996年をピークに減少を続けており、出版社は2004年の「総額表示義務化」施行当時に比しても厳しい経営環境のなかにある。さらに、書籍へのバーコード表示の普及による合理化で、スリップは廃止の傾向にあり、スリップを廃止した出版社にあっては、総額表示用のしおり等を作製し挟み込むという新たな負担を生むことになり、対応しきれない出版社が少なくないことは想像に難くない。
(5) 消費者庁の調査では消費者の96.8%が総額表示を望んでいる(2008年8月、物価モニター調査速報)とされているが、「総額表示制度」の復活は、消費税導入時にも生じたロングテールの在庫書籍の絶版化などを再び招きかねず、このことが読者・消費者にとっての最大の文化的不利益となる。また、総額表示のための出版社の費用負担は、出版物の定価に反映させざるを得ず、読者(=消費者)にとっても不利益となる。
(6) とりわけ、現在のコロナ禍の下で、出版はじめ多くの産業が打撃を受けている。6〜7月にかけて行った出版協の会員アンケートでも、3〜5月の会員の中小出版社の売上げは前年同期比で平均27.8%減少し、政府の支援策(「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、「持続化給付金」、「雇用調整助成金」など)を利用した社は78.3%(申請中を含む)に及んでいる。また書店をはじめ小売の現場がさまざまな感染症対応に追われているなか、総額表記の義務化により各現場にさらなる手間や負担を強いるべきではない。
今回、たとえスリップへの表示やいわゆる総額を表示したしおりの挟み込みといった指導にとどまったとしても、消費税率が変更されるたびに毎回同様の対応を迫られることとなり、出版社には負担が重くのしかかり、存亡にも大きくかかわってくる。今後も繰り返されるであろう消費税率の変更への対応でもっとも柔軟性の高い合理的な方法は、出版物においては税額を明示しない外税表示にほかならないのは明らかである。
以上
2020年10月20日
一般社団法人 日本出版者協議会
会長 水野 久
東京都文京区本郷3-31-1 盛和ビル40B
TEL:03-6279-7103/FAX:03-6279-7104
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