2021年7月15日
一般社団法人 日本出版者協議会
1. アンケート調査実施の目的とその項目
一般社団法人日本出版者協議会(出版協)では、会員内に今回の著作権法改正についてさまざまな意見があるので、会員の考え方を知り、今後の方針策定に役立てるために、「著作権法改正に関するアンケート調査」(アンケート調査表は、別途添付)を2021年5月25日から31日まで、全会員(74社、賛助会員17名)に対して実施した。会員社13社と賛助会員1名から回答を得た。この程、その調査結果をまとめたので、公表する。
今国会で可決・成立した「著作権法の一部を改正する法律案」の改正点は、つぎの2点である。(1)図書館関係の権利制限規定の見直し、(2)放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化。
出版社にとっては、(1)が大きな影響を及ぼすもので、その改正点は以下の2点である。
① 絶版等により一般に入手困難な資料(絶版等資料)を、国立国会図書館が利用者にもインターネット送信できるようにすること(施行は公布から1年以内)
② 一定の条件の下、補償金を支払うことで、図書館資料(新刊を含む)の一部分を、公共図書館等が利用者にメール送信等できるようにすること(施行は公布から2年以内)
質問項目は、上記改正点に従って、①について聞く【質問1】と②について聞く【質問2】に大きく分けている。その後、それぞれについて、改正法の文化庁説明資料(https://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_000013222_2.pdf)に基づいて作成した、具体的制度設計の論点について聞くものである。それぞれの回答欄には、3択の回答の他にその理由を自由に記述する欄を設けたので、その選択の理由が記されている。詳しくは別添の「日本出版者協議会・著作権法改正に関するアンケート調査(2021年5月25日実施)結果一覧」(PDF)をご覧ください。
2. アンケート結果から見えてきたもの
アンケートの結果の概要は以下で触れるが、先に結果を踏まえての結論を述べる。
【質問1】と【質問2】で、改正が出版社の売上に良い影響を与える(=売上が上がる)か、悪い影響を与える(=売上が下がる)か、それぞれ〈思う・思わない・どちらともいえない〉の3択で聞いた。いずれも良い影響より悪い影響を懸念する社が多いが、改正点①(国会図書館による「入手困難な資料」の利用者へのインターネット送信)と改正点②(公共図書館等による複写資料の利用者へのメール送信)に対する回答を比較すると、改正点②の方が悪い影響を懸念する社がより多かった。その理由はいずれも傾聴に値するものばかりである。また、「どちらともいえない」とする回答が多数あった。これは、改正の具体的内容が今後施行されるガイドラインに委ねられ内容がいまだ不明な点が多いため、判断を決めかねているからであろう。
また、改正法の文化庁説明資料に基づいて作成した、「絶版等資料」など具体的制度設計の論点への質問については、様々な意見があり、今後検討されるガイドライン策定にあたって参考にすべきものである。
以上の分析結果から、出版協としては、今後も、改正が出版業に与える影響についてより一層精査するとともに、今後予定されているガイドラインの策定や補償金の具体的な制度作りに積極的に関与していくため、その協議会への参画を働きかけていくべきだと考える。
また、アンケートの回答に、図書館のあり方に関するそもそもの議論ができていないという指摘があった。 今後出版協内で、図書館と出版社との関係をどう見るかも含めてこれらの点について議論を深めていきたい。
3. アンケート結果の概要
アンケート項目は、大きく分けて改正点①と改正点②について出版社の売上に良い影響を与えるか悪い影響を与えるか、それぞれ〈思う・思わない・どちらともいえない〉の3択で聞いた。この〈良い影響と悪い影響〉は表裏の関係にあるので、対照しながら回答を見ると一層その理由が鮮明になる。
三択の回答数の集計をあげると、つぎのとおりである。
○改正点①(国会図書館による「入手困難な資料」の利用者へのインターネット送信)について
良い影響を与えると―思う3社(21%) 思わない6社(43%) どちらともいえない5社(36%)
悪い影響を与えると―思う6社(43%) 思わない2社(14%) どちらともいえない6社(43%)
○改正点②(公共図書館等による複写資料の利用者へのメール送信)について
良い影響を与えると―思う3社(22%) 思わない9社(63%) どちらともいえない2社(14%)
悪い影響を与えると―思う9社(64%) 思わない1社(7%) どちらともいえない3社(22%)
*選択回答なし1社
改正点①については、悪い影響を懸念する回答が上回っているが、どちらともいえないとする回答もかなりの比重を占める。これは、改正にともなう「絶版等資料」の範囲や送信の停止方法などについて具体的な運用のガイドラインが公表されていないため、判断を留保しているからであろう。
改正点②については、良い影響は①と同じ3社であるが、悪い影響は9社と増えている。その分どちらともいえないが減っている。会員社は、改正点①より改正点②の方がより悪い影響を強く感じている証左であろう。
3. 特筆すべき回答
アンケート調査で特筆すべき回答を、つぎにいくつかあげる。
○改正点①について
良い影響の理由として、「より多くの人々が図書館の蔵書にある情報にアクセスしやすくなることによって、それらの書籍のさらに関係する資料への興味や読者欲を促進し、書籍の購入がさらに増える効果を生む可能性」とプラスの波及効果をあげる。
悪い影響の理由として、「『絶版等資料』の考えを緩めているので、出版物がすぐ簡単に『絶版等資料』になる可能性が強まり、出版社の出版活動の意欲そのものを阻害、萎縮させることになる」と出版活動への影響を懸念する。
改正点①については、「絶版等資料」の定義が問題となっている。「絶版等資料」として「3カ月以内に復刻などの予定」があるものは除かれるとされているが、それについて詳しく聞いた。「復刻の企画から刊行にかける時間を考えると、短すぎる。最低でも2年は必要」とする回答が1社あるほか、多くの社は最低でも1年とすべきだとする。
○改正点②について
良い影響の理由として、「著作物の一部を確認することで、全部入手したいと考えることはありえる」、「現状行われていること(複写サービス)が、オンラインになるだけのこと」などがあげられる。悪い影響の理由として、「単純に現象面を追えば、2回のスキャンデータを分割で入手すれば『1冊』になる」、「安易に電子データを集めることができる。拡散しやすい」、「買い控えが多くなると想定する」、「著作物の半分は多すぎるので、10%程度にと留めるのが良い」など、電子データの複写・拡散の容易さについて指摘している。
改正点②については、補償金が発生するが、それは権利保障として十分かどうかについても聞いた。
十分でないと回答した社は7社で、その理由は、「どれだけ支払うつもりなのか不明」、「合理的な補償金の徴収、分配が行われると考えにくい」、「指定管理団体が版元や著者に補償金を還元するか又はできるか疑問である」、「金額が適正かの判断は難しい。もうちょっと議論すべきである」など疑問を呈するものが多かった。
改正法審議では具体的な点が不明確であったため、疑問の声が大きかったといえる。
以上
【著作権法改正に関するアンケート調査表】
今国会に「著作権法の一部を改正する法律案」(改正案)が提出されています。
改正理由は、「著作物等の公正な利用を図るとともに著作権等の適切な保護に資するため、図書館等が著作物等の公衆送信等を行うことができるようにするための規定を整備する」ことにあります。
文化庁の文化審議会著作権分科会は、コロナ禍による図書館休館などで利用者の図書館資料へのアクセス障害が発生したことと、2020年5月27日の知的財産戦略本部(内閣府)の決定に後押しされて改正の具体的な検討に入ったものです。2021年3月に、同分科会は、「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書」をまとめました。 直ちに改正案が提出されましたが、5月18日、衆議院で全会一致で原案通り可決されました。現在参議院で審議中です。
上記報告書をまとめるにあたって意見募集がなされましたが、出版業界からこのような改正は出版業を圧迫するとの強い懸念の意見が多数寄せられました。
出版協会員内にも、今回の改正についてさまざまな意見※があります。そこで、出版協理事会は、今後の意見表明など活動の参考にしたいので、会員のみなさんの考え方を知るために、アンケート調査を実施する次第です。ご協力いただければ幸いです。
なお、集計結果は、出版協ホームページやマスメディアなどで公表いたします。その場合、出版社名は公表しませんが、意見の公表をとくに希望しない方は、お申し出ください。
※参考資料
・晴山生菜(皓星社)「著作権法改正は民業を圧迫するか? (ほんのひとこと)」
・成澤壽信(現代人文社)「『「著作権法改正案に対する出版協の見解』をまとめるにあたって」(ほんのひとこと)
1 改正では、国立国会図書館が、「絶版等資料」のデータをインターネットで事前登録した利用者に直接送信することができる。*現行では、国立国会図書館内か、認可された図書館内のみでしか閲覧できない。
(1)この改正は、出版社の売上に良い影響を与える(=売上が上がる)と思いますか。
思う 思わない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(2)この改正は、出版社の売上に悪い影響を与える(=売上が下がる)と思いますか。
思う 思わない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(3)「絶版等資料」とは「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料」であるとしている。そして、「絶版等資料」になる場合の例示として以下をあげている。
(3)−1 「絶版等資料」には、3カ月以内に復刻などの予定があるものを除いている。
3カ月という期間は
妥当 妥当でない
・それぞれその理由をお書きください。
(3)−2 「絶版等資料」とは、紙の書籍が絶版で、電子出版等もなされていない場合、妥当と言えるか。
妥当 妥当でない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(3)−3 「絶版等資料」とは、将来的な復刻等の構想があるが、現実化していない場合、妥当と言えるか。
妥当 妥当でない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(3)−4 「絶版等資料」とは、最初からごく小部数しか発行されていない場合(例:大学紀要、郷土資料等)、妥当と言えるか。
妥当 妥当でない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
2 図書館の蔵書資料(新刊を含む)について、改正では、図書館が利用者に対して、調査研究目的であれば蔵書の一部分(著作物の半分) を、紙の複写に変えて、電子データとして直接送信できることになる。
*現行では、紙の複写物の直接提供か郵送のみ可能。
(1)この改正は、出版社の売上に良い影響を与える(=売上が上がる)と思いますか。
思う 思わない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(2)この改正は、出版社の売上に悪い影響を与える(=売上が下がる)と思いますか。
思う 思わない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
(3)この場合、権利者に対する補償金が発生する。図書館は、利用者から補償金を徴収し、指定管理団体に支払う。権利保障として十分か。
十分 十分でない どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
3 出版協は、この著作権法改正案に対する見解を4月28日に公表しているが、この見解に対するご意見を伺いたい。
*見解全文は、出版協ホームページに掲載。 https://www.shuppankyo.or.jp/post/seimei20210428
賛成 概ね妥当 反対 どちらともいえない
・それぞれその理由をお書きください。
4 その他、著作権改正問題について、ご意見を自由にご記入ください。
以上
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